『-one-』

公認彼氏 P7


 不意打ちで押されて踏ん張る事が出来なかった私の体はそのまま横に倒れそうになった。

 だが優しい手が私の肩を抱いた。

「大丈夫?」

 右肩を抱かれたせいで陸の顔がグッと近くなった。

 囁くような声が耳のすぐそばにするのがくすぐったい。

「麻衣さん、こういう所初めてなんだ? あ…話し方少しくだけてても平気かな、きっとその方が早く馴染めると思うから」

 いかにもナンバーワンらしい優しい気遣い。

 けれど陸に「麻衣さん」なんて呼ばれる方がよけいに違和感を感じて緊張してしまう。

「もしかして…緊張してる?」

 肩を抱いている手が髪を弄っている。

 私と陸の間は隙間がないほどピッタリと体が触れ合っている。

 至近距離に私の最初の決意はすでに崩れそうになっていた。

(もう…陸ってば本当に分かってるの?)

 私にはホスト全開で接客する必要なんかないのに…そう思いながらチラッと陸の顔を見ると目が合った。

 どうやらずっとこっちを見ていたらしい。

 目が合った瞬間陸の口元にフッと笑みが浮かんだ。

(ワザとやってるんだっ!)

 私の困っている顔を見てきっと小躍りしそうなほど楽しいとか思っているのだろう。

 私は左手をソッと体の横につけるとすぐ隣にある陸の太ももを思いっきり抓った。

「……ッ!」

 小さな呻き声が聞こえてくると私はいくらか気持ちがスッとして手を元の位置に戻した。

 だがどうやら私は押してはいけないスイッチを押してしまったらしい。

 陸は離れるどころか熱っぽい視線を私に向けてきた。

「あんまり見ないで…」

 なるべく唇を動かさないように陸にだけ聞こえるような小さな声で囁いた。

「どうして? 俺はずっと麻衣さんを見ていたいな」

 ドクンッと心臓が跳ねた。

 いつもの数倍大人っぽい陸に囁かれたのは久しぶり過ぎて免疫がなくなってしまったらしい。

 心臓がドクドクと音を立て始めた。

「あんまり変な事言わないで…」

 熱くなった顔を悟られないように俯きながら小さな小さな声で呟いた。 

 唯一救いなのは後輩の三人が酔っ払って悠斗くんや響くんと楽しそうに騒いでいることだった。


[*前] | [次#]


コメントを書く * しおりを挟む

[戻る]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -