『-one-』

公認彼氏 P6


(こんなんで大丈夫かな?)

 最初から不安な滑り出しだった。

 いくら皆が協力してくれても私がボロを出す可能性が一番高いような気がしてきた。

 せめてこの人の隣じゃなきゃまだ救いがあったかもしれない。

 気が滅入ってため息をつきそうになると隣から名刺を差し出された。

「初めまして、陸です」

 あまりのタイミングの良さはさすがというべきだろうか。

「……は、初めまして」

 自分でも分かるほどぎこちない挨拶をしながら手を出して名刺を受け取ろうとした。

 なるべくなら注目を浴びずに空気のような存在でいたい。

 そう思いながら素早く名刺を受け取り手を引っ込めようとした私は目を見開いた。

(ちょっ…何してるのっ!?)

 あろうことか名刺を渡すだけじゃなく陸の手は私の手を包み込んでいる。

 顔を上げて抗議の視線を送っても手を離そうとしない。

 それどころか誰もがうっとりしてしまう甘い笑顔を返されてしまった。

「お会い出来て光栄です。いつも彼女達から良い先輩だと聞かされていたのでずっとお会いしたいと思っていたんですよ」

 それはもう手の甲に接吻でもしそうな勢い。

(って…知ってたなら教えてよっ!)

 同じ会社の子が店に来ているなら一言くらい教えてくれたって良さそうなものなのに…。

 胸の中でムカムカしていると手をギュッと握られた。

 すぐそばにある陸の顔を見上げれば整った顔立ちがジッと見つめている。

(あぁ…もう…カッコいい…)

 久々のホスト全開の陸を目の当たりにした私はドギマギしてしまった。

「あ、あの…手を…」

 今、目の前にいるのはまるで初めて会った時の陸そのものだった。

 あの日も何かにつけて私に触れて来た。

 握られたままの手を離してもらうように視線で訴えると陸は「残念」と呟いてから名残惜しそうに手を離した。

 ようやくホッと息をついた。

(帰ったら怒ってやらなくちゃ!)

 胸の中で陸に向かってあっかんべーとしながら名刺を鞄にしまうと膝の上でギュッと手を握った。

「本当にホストクラブ初めてだったんですねぇ」

 私の反応を見てそう思ったらしい。

 実際はきっとこの子達よりもずっとずっと通っているのは間違いなかったけれど今はそう思われていた方が都合がいい。

 私は笑顔を見せてぎこちなく頷いた。

「でも陸くんはすっごい優しいし今日は独占しちゃっていいですよっ!」

 アルコールが入ってすっかりご機嫌の後輩に隣からトンッと押されてしまった。

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