『-one-』

公認彼氏 P3


 しばらく蹲っていたがどうしようもないので覚悟を決めて立ち上がった。

 鞄の中から携帯を取り出してボタンを押すと耳に当てた。

 すぐに呼び出し音が鳴る。

 一回、二回……。

「もう…早く出てよぉ…」

 接客中はすぐに電話に出られない事はよく分かっていたがこの非常事態にそうも言っていられない。

 なかなか繋がらない電話に文句を言う。

 だが長い呼び出し音の後に留守電に切り替わってしまった。

 メールを送ろうと思ったが電話に出られないならメールも同じ事だと思い諦めて電話を鞄にしまった。

 そして今に至る。

(これ以上は待たせられないよね…)

 あまり外に長くいれば三人が無理矢理中に連れこもうとするのは必至だった。

 私は覚悟を決めてドアのレバーに手を掛けた。

 ゆっくりと下に下ろすと手前に引いた。

「いらっしゃいませ!」

 ドアを開けた途端いつもの声が聞こえてきた。

 店の中に入ると入り口に立っていたみんなが笑顔で私を出迎えた。

「お久しぶりですね! 麻…んぐっ」

 大きな声で私の名前を口にされる前に手で口を塞いだ。

 私は周りに注意を払いながら声を潜めた。

「シー! 静かに…私の名前は呼ばないで」

 私の切迫した様子に気圧されたように皆は黙って何度も頷いた。

 それを確認しながらもう一度念を押すようにグルリと皆の顔を見渡してから手を離した。

「さっき三人組の女の子が入ったでしょ?」

「あぁ…同じ会社の子ですよね? 最近よく来てくれますよぉ」

 私の心配など知ってか知らずかあっけらかんとした顔で返された。

(あぁ…肝心な事忘れていた…)

 温泉旅行で知り合ったなら私と同じ会社だって事は全員が知っていて当然だった。

 もしかしたらもうバレているのかもしれないという考えが一瞬頭を過ぎったがそれならとっくに三人から尋問を受けているはず。

 すぐにその考えは打ち消した。

「それでね…無理矢理連れて来られちゃって…」

 すぐに事情を察してくれたらしく全員が「あぁ」と微妙な相槌を打った。

 陸との事は店のトップシークレットでそれがバレてしまう事は万に一つも無い。

 けれど私がここへしょっちゅう来ている事を隠すのは難しい。


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