『-one-』

アツアツサマー P8


 麻衣はまるで大家族の母親にでもなった気分だった。

 大型のカートを一番下の子達(ホスト)が引いてヤンチャな兄達(主に陸と悠斗)が好き勝手カートに放り込んでいく。

「陸!何そのウインナー!」

「やっぱタコの赤ウインナーは外せないじゃん!」

「それを言うならカニっすよ〜!」

 こんな時ばかり意気投合した陸と悠斗は「じゃあ両方だな〜」とさらに赤ウインナーをカートに放り込んだ。

 なぜか赤ウインナーの袋が10袋も入っている。

 カートを持ってる新人の子はまるで子供みたいにはしゃぐ二人にあっけに取られていた。

「ごめんね?」

 麻衣は申し訳なさそうに謝るとカートの中からウインナーの袋を二つだけ残して陸に押し付けた。

「戻して来て」

「何で〜」

「りーく?」

 膨れる陸にグイッと袋を押し付けると陸と悠斗の二人を睨みつける。

 怒ると怖いと知っている二人は顔を引き攣らせて慌てて売り場に戻しに行った。

「陸さんっていつもあんな感じなんですか?」

「ん?まぁ…あんなにはしゃいでるのを見たのは久しぶりかな」

 と笑いながら答えると陸の後姿を追いかけた。

 まるで兄弟のようにじゃれ合いながらスーパーの通路を行く二人は微笑ましい。

「麻衣ちゃんには感謝してるよ」

「誠さんっ!?」

 スッと横に並んだ誠が声を掛けた。

 急に声を掛けられて驚いた麻衣の声が裏返った。

 周りからの注目を浴びると麻衣は恥ずかしそうに俯き誠はクスクスと笑った。

「麻衣ちゃんと出会う前の陸からは想像出来ない姿だよ」

「え?」

「アイツはホストとしては本当に申し分なかったけれど…なんて言うのかな人間味がなかったんだよな。仕事以外は興味がなく冷めてて店の奴とツルむような事もせずカリスマホストなんて呼ばれるうちに孤高の存在になったんだけど…」

 昔を懐かしむような誠の表情。

「それが麻衣ちゃんと出会った途端アレだもんな」

 穏やかな表情の誠が顔を上げて見つめている先には手に何かを持っている陸がこっちに向かって歩いてくる姿があった。

 誠と麻衣の姿に気付いた陸は小走りになって駆け寄ってくる。

「本当に感謝してるんだ。あんな奴だけどこれからも側にいてやって」

「えぇ……離してくれそうにないですしね」

 麻衣は引き攣った笑顔を浮かべた。

「威嚇してんじゃねぇよ…」

 麻衣に駆け寄った陸は誠から引き離すように麻衣を引き寄せた。

 後ろから麻衣に抱き着き呆れた顔の誠をジトーッと見上げている。

「二人で何話してたの?」

「何でもねぇよ。お前ら肉買うぞー肉!それと焼きそば!悠斗、響!ビール持って来い!」

 不審な目で見る陸にフッと笑いかけると騒いでいるホスト達に指示を出して引き連れながら歩いて行った。

 二人はその場に残されてしまった。

「ねぇ。何話してたの?」

「何でもないよ。それよりこれ何?」

「タコ」

 問い詰めようとする陸の言葉をかわして手に持っている物を指差した。

 陸の手には蒸しタコのパックが握られていた。

「何でタコ?」

「タコ焼き食べたい。だから作って!」

「バーベキューにたこ焼きっておかしい…っていうよりたこ焼き器がないと無理でしょ!」

「じゃあ…たこ焼き器も…」

「もう!それはまた今度。早く戻して来てね」

 バーベキューにたこ焼きなんて聞いた事がないと麻衣は笑った。

 それでも残念そうに手に持ったタコを見つめる陸が可愛くて仕方がない。

「今度たこ焼き器買いに行こっか?」

 そう言って笑うと陸も嬉しそうに笑って売り場に戻しに行った。

 離してあげられないのは自分の方かもしれないと呟くと陸の後姿を追いかけた。


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