『-one-』

アツアツサマー P7


「付き合ってはないと思うんだけど…」

 しばらく考え込んで出た言葉は歯切れが悪かった。

 それもそのはずで麻衣の頭の中には今朝の美咲との会話を思い起こしていた。

 朝、誠が乗ってきた車の中から出て来た美咲は降りると麻衣の横に立った。

「おはよ!やっぱり麻衣も来てる」

「もう〜来るならメールしてくれたっていいのに」

「なんかバタバタしてて忙しかったのよ。昨夜誠のがいきなり来て買い物に行くって連れ出されて訳も分からずバーベキューグリルやら椅子やらサンシェードやら買うのに付きあわされたの」

「へ、へぇ…」

 妙にハイテンションで喋る美咲に圧倒された。

「おまけに今朝なんか何時に起こしたと思う?五時よ!五時!化粧する時間もいるのに30分には出掛けるとか言い出すし…」

「誠さんとこから来たの?」

「ううん。家に泊まってったから」

「美咲の部屋に?」

 仲が良いというのは気付いていたしそういう関係だという事も薄々気付いていた。

 それでも二人が付き合っているという決定的な確証はなかった。

「ね、ねぇ…美咲とまこ…」

「おーい!早く乗れよー」

 肝心なところを聞こうと口を開くと誠の大きな声が二人の会話を遮った。

「じゃあ後でね!」

 美咲がすぐにハイエースの助手席に乗り込んで話は終わってしまった。

 もう何年も特定の彼氏を作っていない事を麻衣は知っていた。

 そしてその理由も麻衣は知っている。

「その割には仲良いよな〜。誠さんの方はまんざらでもなさそうだし」

「んー…」

 陸の言ってる事は麻衣にも理解出来た。

 傍から見ていても誠の気持ちが美咲に向いているのは一目瞭然だった。

「美咲さんって彼氏いるの?」

「いないけど…」

「じゃあ好きな奴は?」

「んー…」

 陸に突っ込まれる度に麻衣の声は小さくなり歯切れが悪い。

 不思議に思った陸が麻衣の横顔を見ると複雑な顔をして俯いている。

「麻衣なんか理由(ワケ)あり…?」

「え?あ…うーん…」

 言葉を濁しているとちょうど麻衣の携帯が鳴った。

 麻衣はホッとしたように電話に出ると短く言葉を交わして電話を切った。

「あそこのスーパーに寄って買い物するって」

 それからまた美咲の話題に戻る事はなかった。

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