『-one-』

アツアツサマー P6


「で…?何でお前がこっち乗ってんの?」

 ハンドルを握る陸はルームミラーで後部座席をジロリと睨む。

 後部座席には悠斗と響が座っていた。

「人が多い方が楽しいじゃないっすか。なぁ響?」

 さっき寄ったコンビニで買った焼きそばパンを頬張る悠斗がニヤニヤ笑いながら答える。

 一番後ろの座席には響が缶コーヒーを飲んでいる。

「…というより保険ですね。陸さんが現地まで大人しく来るように」

「プッ…」

 響の言葉に思わず麻衣が吹き出した。

 慌てて口を押さえて澄ました顔をしたが陸は口を尖らせて横目で睨んでいる。

 してやったりという顔で響と悠斗は顔を見合わせて笑った。

「あー腹立つー」

「りーく、サンドイッチ食べる?」

 麻衣は右手に玉子左手にツナのサンドイッチを持って陸のご機嫌を取った。

「ん」

 短く返事をして麻衣の左手を指差した。

 サンドイッチの包みを開き陸に手渡すと今度は缶コーヒーを開けてホルダーに戻した。

「ほんと奥さんだ…」

 悠斗が感心するように呟いた。

 当然!とばかりに陸は勝ち誇った顔でサンドイッチを口に放り込んで汚れた指先を舐める。

 するとすぐに麻衣はウェットテッィシュで陸の指を拭いた。

「奥さんというよりお母さんですね」

 一番後ろからボソッとだが確実に運転席に届く声で呟いたのは響。

 ムッとした陸に追い討ちを掛けたのは押し殺した悠斗の笑い声。

「お前ら降りる?」

「冗談じゃないですか」

「お前が言うと冗談に聞こえねぇっつーの」

 表情の変わらない響の顔をミラー越しに覗きこんだ。

 手入れの行き届いたクセのない黒髪は今時珍しい。

 いつもはフレームなしや銀縁フレームの眼鏡を掛けてクールで大人しそうなイメージだが今日はスクエアの黒い太めのセルフレームを掛けいつもよりも素の響に近かった。

 あまり感情を表に出さない響だがレンズの向こうの瞳は穏やかに笑っていて陸の目元が優しくなる。

「それにしても美咲さんが来たのには驚いたなぁ」

「そうっすよね!美咲さんってアウトドアには一番遠いって感じっすよね」

「ねー麻衣。あの二人ってどうなってんの?」

 誰もが聞きたくて聞けない疑問。

 陸に問いかけられた麻衣はんーと考え込んだ。


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