『-one-』
アツアツサマー P5
麻衣の体が腕の中から抜けそうになると陸はギュッと腕に力を入れて引き留めた。
胃の辺りを強く押さえられ麻衣が苦しそうに呻いたが陸は力を緩めない。
「陸…ッ…離してってば」
「やだね!悠斗が手を離せばいいだろ」
「麻衣さんは俺じゃなくて陸さんに離してって言いましたー」
その一言にムッとした陸の顔が険しくなる。
同時に腕の力も強くなり麻衣の顔が苦しさに歪む。
「悠斗くんも煽らないで…」
「あ、あ…すみません」
苦しそうに絞り出した麻衣の声に悠斗は慌てて手を離した。
悠斗の手が麻衣から離れるのを見ると陸はすぐに腕の力を緩めて麻衣はようやく安堵の息を吐いた。
「ハイハ〜イ。朝からイチャイチャしすぎ、もう少し羞恥心を身に着けようねぇ陸くん」
明らかにからかってる口調の誠がようやく口を挟んだ。
「ホストがこれくらいで文句言うなよ」
そう小さく呟く陸はまだベッタリと麻衣にくっついている。
その声は麻衣の耳にしか届いておらず麻衣は引き攣ったような笑いを浮かべた。
「それよりさ〜何台出すの?俺の車八人乗りだけど乗るなら六人ってとこだな。だから後四人しか乗れねぇんだけど…」
陸は言いながら店の中にいる人数を数え始めた。
「安心しろって俺も車出すから」
心配そうに指を折っている陸に向かって誠が声を掛けた。
だが陸は怪訝な顔で誠の方を見た。
「誠さんの車って…」
陸がそんな顔をするのは無理もなかった。
誠の愛車はポルシェ・911カレラ4Sで綺麗なブルーのボディは通り過ぎるだけで人目を惹く。
当然の事ながら大人数で乗れる車ではない。
「安心しろって。昨夜のうちに車借りて来たから」
自信たっぷりに言いながら店を出て行く誠に皆もぞろぞろとついて行く。
そして陸のエスティマの後ろに止められた10人乗りのハイエースを見て唖然とした。
「これはでかくね?」
陸の呟きに思わず頷く一同。
「荷物もあるんだからこれくらいでちょうどいいんだよ」
「まぁ…そう言われてみればそうだけど…」
それにしてもここまで大きいのは必要なかったんじゃないかと皆の心は同じ思いだった。
「やっと出て来た。おっはよー今日はよろしくね!」
誰がどっちに乗るかと話し合っていると明るい声が聞こえて皆が振り返った。
後部座席のドアが開いて出て来たのは珍しくカジュアルな格好をした美咲だった。
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