『-one-』
アツアツサマー P4
「みんな揃ったか〜?」
「誠さん!遅い!」
店の中に誠が入って来ると陸は立ち上がってすぐに誠の所へ歩いて行く。
「そりゃ仕事サボった奴はさぞかし早起き出来たろうよ。なぁ陸?」
誠は陸の首に腕を回して体重を掛けた。
苦しそうな表情を作って誠の腕を叩く陸だったが目は楽しそうに笑っている。
「来週はめちゃめちゃ働くって!」
「当たり前だ」
任せろとばかりに親指を立てた陸の頭をぐしゃぐしゃと誠の手が撫で回した。
何だかんだ言ってもこの二人の関係は他の従業員達とは一線を画していた。
この界隈の同業者からも陸は誠の右腕でいずれ経営側に回るだろうと噂されている。
まったくその気がないせいか陸はその噂を気にする事はなかったが誠は事実陸に対して全幅の信頼を置いていた。
「麻衣ちゃん朝早くごめんね?」
「おはようございます!いつも陸が迷惑ばかりかけてごめんなさい」
陸を離すと麻衣の方に向き直り笑顔を向けた。
仕事の時は「麻衣さん」と呼ぶがそれ以外は「麻衣ちゃん」と親しみをこめて呼んでいた。
申し訳なさそうに頭を下げる麻衣に誠は笑いかけた。
「すっかり奥さんの顔だね?」
「え!?あ…そ、そんなつもりじゃなくて!」
思わぬ指摘をされた麻衣はカァッと顔を染めると激しく手を振りながら否定した。
慌てる麻衣とは違い陸の顔は誰が見ても分かるほど緩みきっている。
「照れなくたっていいのにー本当の事じゃん」
仕事の時には見せる事のない甘い顔ですり寄ってくる。
人前でイチャつくのが恥ずかしい麻衣はさりげなく陸の抱擁をかわそうとするがそれでも諦めない陸が麻衣を掴まえた。
後ろから腰を抱くように麻衣を腕の中に引き寄せる。
「俺…陸さんの車乗りたくねぇ〜」
移動中ずっとコレを見せ付けられるかと思うとウンザリとばかりに悠斗が呟いた。
「乗らなくていいよ。俺は麻衣と二人きりの方が楽しいし〜」
悠斗が嫌味のつもりで言った言葉に陸は満面の笑みで頷いた。
気にするどころか逆に喜ぶ陸に悔しそうに奥歯を噛んだ。
二人の間に挟まれた麻衣だけが困ったように肩をすくめる。
「そう言われたら意地でも陸さんの車に乗るっす!」
「はぁ!?乗りたくねぇっつっただろ」
「乗るったら乗るっす!さぁ行きましょう〜麻衣さん!」
陸と睨み合っていた悠斗が麻衣の手を引いた。
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