『-one-』

アツアツサマー P3


「そういう事言わないの!」

 麻衣は陸の手を平手でパチンと軽く叩いた。

「俺が言ったんじゃないじゃん!悠斗だろ?」

「なっ…!何で俺ぇ〜!?」

 悠斗は陸に指を差されると顔の前で違う!違う!と手を振った。

 麻衣は二人の顔を交互に見るとフンッとソッポを向いた。

「麻衣さぁ〜ん」

 慌てた悠斗を見て陸はざまぁみろと言わんばかりにシシシッと笑った。

 そんな陸を麻衣がキッと睨みながら振り返ると陸は慌てて顔を引き締めた。

 悠斗は必死に麻衣の前で手を合わせて頭を下げている。

「んで…まだ張本人が来てねぇみたいだけど?」

 ふと陸が周りを見渡した。

 時計を確認するともう約束の6時はとっくに過ぎている。

「さぁ…昨夜は用事があるとかって先に帰られたんで…」

「おいおい…俺にサボるなって言っておいて自分はそれかよ〜」

「誠さんは経営者で陸は従業員でしょ」

 自分を正当化しようとする陸に麻衣がすかさず突っ込んだ。

 間髪入れない見事な突っ込み陸はギョッと目を見開いたが軽く咳払いをして何事もなかったように話題を変えた。

「どうして突然バーベキューになったんだ?」

 昨日の事情を知っていそうな悠斗や響に問いかけた。

 二人は顔を見合わせて首を傾げた。

「昨夜は陸さんの突然の欠勤で機嫌が悪かったんですよ」

 響が昨日の店の様子を語り始めた。

 さりげなく嫌味を言われたような気がして陸が顔を引き攣らせた。

 だが響は気にせず話を続けた。

「俺達はまぁいつもの事なんで特に気にしてなかったんですが。それから少ししていきなり「明日はバーベキュー行くぞ」って言い残して帰っていったんですよね」

「そうか。…ってそれじゃあ理由になってねぇだろ!」

 まったく意味のなかった話に頷きながら聞いていた陸がハァッとため息を吐く。

「あっ!」

 悠斗が何かを思い出したように手をポンッと叩いた。

「昨日は新規のお客様が来てオーナーも最初だけついたんすよ。そん時に夏休み何してました〜?みたいな話になって…バーベキューの話題になったんだ!」

「それで突然行くって?」

 思い出した悠斗はスッキリした顔で頷いた。

「その時作った塩焼きそばがすっごい美味しいとかって話をしてて。その時にオーナーが「焼きそば食いてぇなぁ」ってボソッと言ってたっす」

「焼きそばかよ…そんなもん中で作れよ!」

 陸は厨房を指差した。

 皆もウンウンと頷いたが聞かせたい相手はココにはいない。

「誠さんってインドア派のイメージだけど思ってるよりアウトドア派?」

「あの人はアウトドアというより体育会系のノリ。面倒見が良くて仲間を大事にして親睦深めるという口実で飲み会をするのが好きで…そのうち野球チーム作るとか言い出すかもな」

 麻衣の疑問には誠と一番付き合いの長い陸が答えた。

「さらに付け加えると体育会系だから当然俺達は逆らえない…」

 ふぅんと頷いた麻衣に陸が一番大事な事を付け加えるとちょうど店の入り口から朝の光が入って来た。

 朝の光を背中に浴びながら立っていたのは野球チームで言えば監督になるだろう誠だった。

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