『-one-』
アツアツサマー P2
早朝の栄はとても静かだった。
近くの公園から聞こえる蝉の声だけがやけに響き渡っている。
CLUB ONEの店の前に黒のエスティマが横付けされた。
運転席から降りて来たのはTシャツにジーンズ姿の陸、続いて助手席からはTシャツにデニムのカプリパンツ姿の麻衣。
二人は連れ立って店の中へと入って行く。
「うぃーっす」
「おはよう〜」
いつも賑やかなフロアはシンと静まり返っていた。
ソファその上にはTシャツにハーフパンツといったカジュアルな格好のホスト達がぐったりとしていた。
一度帰って着替えだけは済ませて来たらしい。
転がっていた悠斗が体を起こすと他の者もノロノロと体を起こした。
「おはようっす」
低いテンションで挨拶した悠斗に続き輪唱のように挨拶が交わされる。
「おいおい…腐ってんなぁ」
あまりの様子に苦笑した陸は悠斗の前にあるスツールに腰掛けた。
「仕事サボってる人に言われたくないっす」
ジロッと悠斗に睨まれて陸は視線を泳がせた。
皆がそうだそうだと首を縦に振る。
「本当にいつもごめんね?悠斗くんやお店のみんなには迷惑ばかりかけてしまって」
陸の隣に立っていた麻衣が代わりに深々と頭を下げた。
「麻衣さんは悪くないっすよ!」
「そうですよ。むしろいつも面倒見てる麻衣さんには俺達頭が上がらないですよ。ありがとうございます」
悠斗に続いて響がフォローした。
三人はまるで近所の主婦同士の井戸端会議のように互いを褒め称えあった。
その光景を見上げた陸は一人ポツンと取り残された。
腰掛けた陸は開いた足の間に手を付き面白くなさそうに口を尖らせた。
「なんだよ…麻衣まで…ちぇっ…」
気に入らないとばかりに舌打ちして恨めしそうな視線で麻衣を見上げた。
麻衣は悠斗と響に挟まれて立っていた。
それがまるで姫を守る騎士のように見えた陸はムッとして麻衣の腕を引っ張った。
「ちょっ…きゃぁっ!」
無理矢理引っ張られた麻衣はバランスを崩して倒れそうになったが陸が受け止めた。
腕の中に倒れこんだ麻衣をギュッと抱きしめる。
「やぁだ!離してってば!」
「うるさいー!麻衣は俺のそばにいればいいだろっ」
腕を振り解こうとする麻衣をさらにきつく抱きしめた。
「陸さん…大人気ないですよ」
響が呆れた様にため息を吐いた。
陸は大きなお世話だと言わんばかりにギロッと睨みつける。
「だいたい人前でイチャつきすぎなんすよ。昨日仕事サボったんだからどうせ昨夜だって…」
「やってねぇよ!」
悠斗の言葉にすかさず陸は突っ込んだ。
そしてジトーッと何か言いたげな視線で麻衣の顔を覗きこむ。
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