『-one-』

ある夏の一日'08 P9


「はい、到着」

 シャワーの所に着くとようやく麻衣は下ろしてもらえた。

「ほっんとに恥ずかしかったんだから!」

 麻衣は顔を真っ赤にしながらシャワーを捻った。

 温かい温泉が気持ちよく体を流していく。

「別に俺は恥ずかしくないもん」

「私は恥ずかしいの!」

「何…俺といるのがそんなに恥ずかしいの?」

 あまりに恥ずかしいを連発する麻衣に陸はすっかりヘソを曲げてしまった。

 不貞腐れながら浮き輪を叩いて八つ当たりをしている。

「そうじゃなくって…みんなに見られるのが恥ずかしいってこと」

「俺は恥ずかしくないもん」

 話は堂々巡りになりそうだった。

 麻衣は溜め息を吐きながらシャワーを止めた。

 風が吹くと麻衣は体を震わせた。

「寒い?」

 気付いた陸は心配そうに声を掛けた。

「ん…体が冷えちゃったのかも。あ…温泉プールってあったよね?入ろ?」

「確か…あっち」

 陸は麻衣の手を引こうとしたが躊躇した。

 繋がれるのを待っていた麻衣の手は差し出したまま宙に浮いた。

「陸?」

 黙ったまま難しい顔をしている陸。

 麻衣はしばらく首を傾げていたが何となく理由に気付いて自分から陸の手を取った。

「手、繋いでもいい?」

 麻衣に顔を覗き込まれた陸は頬を膨らませた。

「嫌って言うわけないって分かってるくせに!」

「んふふ…」

 クスクス笑う麻衣をグイグイ引っ張りながら陸は歩き出した。

 頼もしくて可愛い陸の後ろ姿を見ながら麻衣はついていく。

 8歳も年下なのに年上かと思うほど頼りになって男らしいかと思えばやっぱり8歳年下と思わせるような可愛いワガママを言う。

 けれどどんな陸でも自分の一番大切な人には変わりがないわけで…。

 怒ってるのか笑っているのかよく分からない表情の陸がクスクス笑っている麻衣をジロッと見た。

「なんで笑ってるの!」

「ん?陸のことが大好きだなぁと思って」

 ふふっと笑う麻衣。

「なにっ!どーして急にそういう事言うの!」

 珍しく陸が照れている。

 真っ赤になった陸は足を早めた。

 麻衣は相変わらずクスクス笑いながら小走りになってついていった。


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