『-one-』

ある夏の一日'08 P10


 夕方。

 二人を乗せた車は渋滞する国道を東へと向かっていた。

 日中たっぷりと楽しんだ二人は涼しい車内の中。

「夕飯何食べたい?」

 昼に軽く食べたきりで陸は空腹の腹を撫でた。

 渋滞していて名古屋市内には入るのはまだ掛かりそうだが途中に飲食店はなさそうだ。

 陸は店を探すのに絞り込もうと麻衣に聞いたが返事がない。

「麻衣?」

 もう一度声を掛けたがいくら待っても返事がない。

 見れば麻衣は窓に頭を付けてすでに夢の中。

 車の冷房はよく冷えるからと麻衣が夏になって持ち込んだピンクのバスタオルを体に掛けている。

 その姿はまるで子供の昼寝のようだった。

「…ったく車に乗るとすぐ寝るんだから」

 ずっとアップにしていた髪も今は下ろしていつもの麻衣に戻っている。

 陸は顔に掛かる髪をかき上げて耳に掛けてあげた。

 前の車に気をつけながらチラチラと麻衣の顔を見た。

 初めて麻衣を車に乗せた時も同じようにいつの間にか眠っていた。

 一年経っても全然変わっていない麻衣にどうしても笑いが零れる。

 それと同時に込み上げるのは昨日よりも強く感じる愛しさ。

 一緒に入った温泉プールであのぶつかった男と鉢合わせになって不機嫌なった。

「子供相手に大人気ない」と笑った麻衣。

 だが高校生だろうが男に変わりはないと陸は突っぱねた。

 自分の中にこんなに執着心があると知ったのは麻衣と出会ってから。

 それが麻衣に関連する事だけだと気付いたのは最近。

 それほど麻衣の存在は自分の中で大部分を占めている。

「…んふふ…」

 寝言なのか麻衣がクスクス笑った。

 幸せそうな麻衣の寝顔に陸の心は自然と穏やかになり渋滞の苦痛さえ感じない。

「夕飯はまた寿司でも買って家で食うかなぁ」

 大好きな玉子とサラダ巻きを頬張る麻衣の幸せそうな顔。

 そんな麻衣をいつものように後ろから抱きしめてテレビを見ている自分の姿。

 どんなに水着姿が可愛くてもやはり見たいのは自分だけに見せてくる普段の麻衣。

 そんな光景を頭の中で描いていると名古屋市の標識が見えて見慣れた街並みが広がっていた。


end

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