『-one-』

ある夏の一日'08 P8


「麻衣?大丈夫?」

 祐二の手を払ったのは陸だった。

 険しい顔をした陸は祐二を睨みつけるとすぐに麻衣に声を掛けた。

「うん…大丈夫。ボーッとしてたらぶつかっちゃって」

「あ、あの…すみません。お、俺が…」

 陸にすっかり萎縮してしまった祐二は体を小さくしている。

 その言葉に陸はもう一度ギロッと祐二を睨みつけた。

「陸っ!そんな怖い顔したら可哀相じゃない」

「だって麻衣っ…」

「私は大丈夫だから、ね?カップ取って?コレ何とかしなくちゃ」

 麻衣は転がっているカップを指差した。

 陸が手を伸ばして取るよりも早く祐二がカップを拾った。

「ほんとごめんなさいっ!迷惑かけちゃって!」

 祐二はカップを片手に再び麻衣の体に手を伸ばす。

「だから祐二ダメだって!」

 貴俊が慌てて祐二の手を掴んだ。

 それと同時に陸も祐二の手を押し返した。

「触んなっ!」

 陸は祐二の手からカップを奪い取った。

 怒鳴られた意味が分からず祐二は傍らに立つ貴俊を見上げた。

 貴俊はポンポンと肩を叩いて後で教えてあげると呟いた。

 体の上の氷をカップの中に戻した陸はカップをトンッと祐二の前に置いた。

「捨てといて。食べんじゃねぇぞ」

「…ちょっと陸!何言ってんの!?」

「た、た、食べるわけ…ないよな?」

 陸の言葉に麻衣も祐二も驚いた。

 祐二は陸の迫力にタジタジでしきりに貴俊に視線を送り助けを求めていた。

「シャワー浴びた方がいいね。気持ち悪いでしょ?」

「そうだね…きゃっ!」

 立ち上がろうとする麻衣を陸が抱き上げた。

 野次馬をしていた人達がざわついた。

「ちょっ…陸!陸ってば!下ろしてって!」

「すぐだからジッとしてて」

「恥ずかしいから下ろしてってば!」

 麻衣は抱きかかえられたまま足をバタバタさせた。

 周りの視線など気にする様子もない陸は麻衣をお姫様抱っこしたまま歩き始めた。

「そのまま歩いたらシロップが垂れて地面がベタベタになるでしょ?」

 陸の意見はもっともだった。

 けれど衆人環視の中でこの格好はたまらなく恥ずかしい。

「恥ずかしかったら顔伏せてて?」

(どうして陸は恥ずかしくないの??)

 不思議に思いながら麻衣は言われるままに陸の胸に顔を埋めた。

「あ、あの…ほんとすみませんでした!」

 後ろから謝る大きな声に陸は立ち止まり振り向いた。

「別にいーけど…人の彼女の体に勝手に触るのは止めとけよ」

 陸はそう言うと足早にシャワーへと向かった。


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