『-one-』

ある夏の一日'08 P7


「じゃあ俺ゴミ捨ててくるね」

 休憩時間になると陸も仕方なくプールを出た。

 昼を少し過ぎて二人は焼きそばとカレーを買って軽い昼食を済ませた。

「そこ動かないで待っててよ?」

 陸はゴミを持って麻衣に念を押す。

 分かったからと麻衣は頷くが陸は何度も心配そうに振り返っている。

(ほんとに心配症なんだからー)

 麻衣は手でひさしを作りながら空を仰いだ。

 西傾きかけてもまだジリジリと焼け付くような強い日差しに額にジワッと汗が滲む。

(昼からも波のプールとかでノンビリがいいかなぁ)

 片手に持った浮き輪に目をやった。

 陸の言い分はかなり理不尽だとは思うけれど二人でのんびり過ごす時間は想像していたよりずっと楽しかった。

「祐二っ!危ないっ!」

 誰かの慌てたような声が聞こえて麻衣は振り返った。

 ドンッ−

 次の瞬間真横から体当たりされて麻衣は尻餅を着いた。

「冷たっ…」

 痛いよりも冷たい方が強かった。

 カラフルなシロップの掛かったカキ氷が麻衣の胸から腹にかけてぶちまけられた。

(嘘ぉ〜っ)

「あわぁぁぁ…ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」

 ぶつかって来た高校生らしき男の子が必死に頭を下げている。

「大丈夫…だけどカキ氷ごめんね?」

「い、いえっ…俺がぶつかっちゃって!ほんとごめんなさいっ!」

「だから危ないって言っただろ?本当に申し訳ありませんでした。お怪我はないですか?」

「もっと早く言えよー貴俊ー」

 ぶつかった子の友達らしい貴俊と呼ばれた子はとても綺麗な顔立ちでスラッと背も高く礼儀正しかった。

 いつもホスト達に囲まれて見慣れている麻衣でさえも思わず見惚れるくらいだった。

(綺麗な男の子ねぇ…)

「ほんとに怪我はないから大丈夫よ?」

 泣きそうな顔の男の子に笑顔を向けた。

 ただ体の上のカキ氷はどんどん溶けて始めている。

「でもカキ氷かけちゃって…えっと…どうしよう…と、とりあえず…それ何とかしないと…」

 男の子は麻衣の上のカキ氷に手を伸ばした。

「祐二っ!待って!」

 パシンッ−

 貴俊が声を掛けると同時に祐二の手は乱暴に払われた。  


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