『-one-』

ある夏の一日'08 P4


「嫌っ…これは無理っ」

「なんでぇ!俺これやりたかったんだって!」

「じゃあ待ってる!」

「高さの低い方でも?」

「無理!下で待ってるからっ!」

 こんなやり取りをしたのは数分前。

 一番初めからフリーフォールスライダーをやりたいと言い出した陸。

 傾斜角度60度のスライダーはまるで直角のように見えてさすがに麻衣は尻込みしてしまった。

 どうしても連れて行こうとする陸を何とか説得して送り出した。

 麻衣は一人で陸が滑って来るのを今か今かと待っている。

「あっ…」

 遥か上から手を振る陸の姿が見えた。

 どうやら順番が回ってきたらしい。

 麻衣は柵にもたれて身を乗り出すように陸を待った。

(うわぁっ…)

 陸は一瞬のうちに滑り落ちて来る。

 かなりの落下速度で落ちてきた陸は水しぶきを上げながら麻衣がいる辺りで止まった。

 びしょ濡れになって髪をかき上げながら立ち上がった。

 周りにいた女性達の視線が陸に集まった。

「やぁーん…すごいかっこ良くない?」

「でも彼女いるんじゃない?」

(ここにいます!ここに!)

 聞こえて来る声に麻衣は心の中で声を上げた。

「麻衣ッ!」 

 立ち上がった陸はすぐに麻衣の元へ戻って来た。

「ほらぁ〜やっぱり彼女いるぅ」

 そんな声が聞こえて来ると麻衣は嬉しくなった。

 自信持ってと言ってくれた陸の言葉に支えられて胸を張って陸の横に立った。

「怖かった?怖かった?」

「全然怖くないよっ!麻衣もやる?」

「んぅ〜〜〜やっぱり無理っ」

 楽しそうな陸の笑顔に気持ちは揺れたけれどやっぱりあれはとても無理。

 麻衣は首をブンブン横に振った。

「次は麻衣の滑りたいのにしよ?どれがいい?」

「んーっと…あれっ!」

 麻衣が指差したのは一人乗りの浮き輪で滑り落ちてくるワイルドリバー。

 二人は次のスライダーへと歩き始めた。


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