『-one-』

ある夏の一日'08 P3


 日頃から素直に気持ちを表す事が出来ていないのがこんな所で出てしまって落ち込む。

 麻衣は上手く言葉が出てこない。

(陸はいつも思った事を口にしてくれるのに…)

 こんな自分がもどかしくても麻衣は陸の体に寄り添うしか思いつかない。

「大丈夫。麻衣の気持ちは分かってる」

 陸はそんな麻衣をなだめるように頭をポンポンと叩く。

「でもさ…麻衣が一番可愛いに決まってるんだからヤキモチ妬く必要なんかないんだよ?もっと自信持って?」

「だってさっきの子達の方が…」

「麻ー衣?俺が麻衣が一番だって言ってるんだよ?」

 いつもと変わらない優しい声と笑顔。

 自然と麻衣の顔に笑顔が戻って来た。

「ありがとね?」

「俺もありがと。それ俺が選んだやつだよね?」

 もう一度確認するように陸は麻衣の水着姿を見る。

 麻衣の水着は黒のギンガムチェックのホルタータイプのビキニ。

 胸元にフリルがあしらって同生地のスカートが付いていた。

「絶対似合うと思ったんだ!」

 本当に嬉しそうな顔をする陸を見て麻衣はこれを選んで良かったと改めて思った。

「…どーせなら黒ビキニも見たかったけどね」

 陸は付け加えるように囁いた。

 麻衣の脳裏に試着してすぐに脱いだ黒の三角ビキニが蘇った。

「あれは無理ッ」

「どーしてぇ!?俺が見てないのにぃー!」

「この水着じゃダメ?」

 地団駄を踏む陸の顔を見上げた。

 視線の合った陸はウッと一瞬怯んだ。

「いいっ!どの水着着ても可愛いから許すっ!」

 ニカッと笑った陸は麻衣の顔を両側から挟みこんだ。

(嘘ッ!ちょっと待ってぇ!)

 麻衣は嫌な予感がして逃げようとしたが間に合わなかった。

「ヒュ〜ッ」

 周りから冷やかす声と口笛が聞こえる。

 麻衣の唇はしっかりと陸の唇によって奪われていた。

「ぷはぁっ!もう!陸のバカバカバカッ!」

 真っ赤な顔になった麻衣は今度こそその場から逃げ出す為に走り出した。

「走らないで下さいね〜」

 プールの係員の声も聞こえないくらいポッポッする顔を両手で押さえるのに必死。

 その後ろから陸はニヤニヤする顔を隠す事もせず嬉しそうに麻衣を追いかけていた。


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