『-one-』
ある夏の一日'08 P2
開園と同時に入ったおかげで二人はスムーズに更衣室へと辿り着いた。
「じゃあ…後でね?楽しみにしてるよ」
陸は素早く麻衣の頬にキスをすると鼻歌を歌いながら更衣室へと入って行った。
麻衣も頬に手を当て周りの視線から逃げるように足早に更衣室へと入った。
水着に着替えた麻衣は念入りにチェックをした。
(ん…大丈夫だよね?)
自分の姿を何度も何度も確認して建物の外で待っているだろう陸の元へと急いだ。
子供達が走り自分よりも十歳以上も若い子達でごった返す出口を出て陸の姿を探した。
貴重品はすべてロッカーに置いて来ているので連絡は取れない。
(結構人いるなぁ…すぐ分かると思ったのに…)
キョロキョロと周りを見渡すとプールへ向かう人波の向こうに陸の姿を見つけた。
「あ…陸っ…」
陸の姿を見つけてホッとした麻衣は駆け寄ろうと足を踏み出した。
「一人なのー?」
「ねーねー一緒に遊ばない?」
(なにあれっ!)
陸は水着姿のスレンダーなギャル達に囲まれていた。
麻衣の目には陸が鼻の下を伸ばしているように見えてムッとした。
足を一歩踏み出したものの次の一歩が踏み出せずに立ち止まっていると陸が麻衣の姿に気が付いた。
笑顔になってこっちへ向かってくる。
「えぇーっ!いっちゃうのぉ?」
「ごめんね!彼女が出て来たから」
ギャル達のブーイングを背中に受けながら陸は麻衣の1mくらい手前で立ち止まった。
麻衣の水着姿を鑑賞するように眺め始めた。
「…出て来るタイミングが悪かったみたいね」
「えっ?」
「水着の女の子に囲まれてたのに邪魔しちゃってごめんなさいね」
「…麻ー衣?」
「………」
嫌味を言ったにも関わらず陸はこれ以上ないくらい嬉しそうな顔。
麻衣は自分から言い出したものの言うんじゃなかったと激しく後悔していた。
(変なこと言うんじゃなかった…)
麻衣はその場から逃げ出すようにプールの方へと歩き始めた。
「麻ー衣ちゃん」
「何でもないっ」
後ろから追いかけてくる陸の声は嬉しそうに弾んでいる。
麻衣は立ち止まらずにスピードを上げた。
「水着で鬼ごっこも悪くないけどー俺はこうやって歩きたいな?」
隣に並んだ陸が麻衣の手を取った。
指を絡めるようにして繋ぐと麻衣は立ち止まって陸の顔を見上げた。
引っ込みがつかなくなっていただけに何て言えばいいか分からず口を尖らせた。
「あんまり可愛い顔しないで?キスしたくなるでしょ」
「怒っ…た?」
「怒ってるように見える?麻衣のヤキモチなんて超レアじゃん!」
(もっと素直に言えば良かった…)
改めて自分の可愛げのなさを感じた。
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