『-one-』
ある夏の一日'08 P1
「さっきからなーにチラチラ見てるの?」
そう言って笑ったのはタンクトップにショートパンツ姿でポリスのサングラスを掛けた夏仕様の陸。
信号待ちの陸はハンドルにもたれるようにして助手席に座っている麻衣を見ていた。
普通ならまだ夢の中にいるはずの日曜の朝。
陸は冷房の効いた車内でハンドルを握り国道を西へと向かっていた。
(何で気付いてるの…もぅ)
麻衣は珍しく髪をアップにしてレストローズのキャミワンピに生成りのクロシェボレロを羽織っている。
「…見てないよ?」
「見ーてた。バレバレだってば…で、どーしたの?」
陸は手を伸ばして麻衣の頬を突付いた。
答えたくなさそうな顔の麻衣はわざとらしく窓の外に視線を向けた。
国道の交差点の信号は長く前方の信号は変わりそうにもない。
「…いいなって」
「ん?何?」
恥ずかしさでボソボソ呟いた麻衣の声は陸の耳には届かなかった。
(もう!一回で聞き取ってくれればいいのにっ!)
「いつも違う感じだけど…やっぱり格好いいなぁって…」
言い終わった麻衣はハンドタオルでパタパタと顔を仰いだ。
ちょうど信号が青に変わって車はゆっくりと動き始めた。
「もー…麻衣ちゃん。あそこに入りたいなら入りたいって言ってくれればいいのにー」
と陸は左斜め前方を指差した。
麻衣は口元をタオルで押さえながらその指の先を追った。
そこには田んぼの風景の中には不釣合いなピンク色の建物。
「もうっ!そんな事思ってません!」
麻衣はプンッと頬を膨らませながら持っていたタオルをニヤニヤしている陸の横顔に押し付けた。
陸はクックックッと肩を震わせながら笑っている。
「冗談だってば。今日は麻衣がどんなに可愛く誘っても断れるよ。だってすっげぇ楽しみにしてんだから!」
確かに陸はもう2〜3日前からかなり浮かれていた。
昨日も仕事で遅かったはずなのに今朝は麻衣が起こすまでもなかった。
「ほんとに楽しみにしてるよね〜?」
「当たり前じゃん!だって麻衣とデートらしいデートって初めてだし、しかもプール!麻衣の初水着が見れるんだよ!」
陸は楽しそうにハンドルをバチバチッと叩いてはしゃいでいる。
(ほんとに楽しみにしてたんだ)
麻衣も水着に少し恥ずかしさはあるものの陸と遊びに行くのは初めてでとても楽しみにしてて一昨日から準備をしていたくらいだった。
「でもー麻衣ってば結局どんな水着買ったか教えてくれないんだもんなー」
陸は少し不貞腐れた口調で後ろの座席に置いてある水着の入ったバッグをチラッと見た。
「それは後のお楽しみです〜!」
二人は朝日を浴びながら人気のリゾートプールへ向かう。
近づくにつれて二人の気持ちは徐々に盛り上がっていった。
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