『-one-』

猛アタック P10:side陸


「フーーッ」

 麻衣のアパートの部屋の前に陸は立つと深呼吸した。

 初めて来る麻衣の部屋。

 美咲に頼んで場所を教えて貰った。

 陸は気持ちを落ち着けてからチャイムを押した。

「はぁーい!」

 インターホンから麻衣の声が流れてくる。

「陸だけど…この前携帯忘れてたから」

 麻衣の声が聞こえなくなる。

 かなりの時間が経ってから部屋のドアが開いた。

 気まずそうな顔をしている。

「わざわざ…ありがとう」

「どうしたしまして」

 陸は表情を変えずに携帯を麻衣に差し出した。

(ここからだ…)

「届けたお礼にコーヒー飲ませてくれない?」

 一か八かの賭けだった部屋に上げてもらえる自信なんてほとんどなかった。

 ここで断られたら違う方法をすぐに考えないといけない。

「分かった。上がって…」

 陸はホッと息をついた。

 小さいテーブルの横に座ると麻衣がコーヒーを置いて少し離れた場所に座った。

「この前は来てくれてありがとう」

「あ、あれは…美咲に頼まれたから…」

「そう?嫌いな奴の所にワザワザ来なくても断れば良かったのに」

 そう言うと麻衣は傷ついたような顔をした。

 陸は表情を変えずに淡々とした口調で話して麻衣を見ていた。

「ごちそうさま」

 陸は飲み終わるとすぐに立ち上がった。

 驚いた顔をした麻衣が立ち上がるのを見て陸は手を差し出した。

「もう会う事もないから握手」

 この日初めて目が合った。

 麻衣がゆっくりと差し出して触れると陸はあまり力を入れないように握った。

「さよなら」

「………」

「麻衣。最後くらい挨拶してよ」

「さ…よな…」

 麻衣の瞳から涙が溢れたと思ったらそのまま俯いた。


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