『-one-』

猛アタック P9:side陸


 一人残された部屋で陸は拳を床に叩き付けた。

 出て行った時の麻衣の顔が頭から離れない。


 泣きながら嫌いって言ったら好きって言ってるのと同じだって分かってないだろ。

 麻衣のバカ…何悩んでんだよ。

 年上をバカにするなって怒るくせに麻衣のやってる事は年上かよ…。

 一人になった部屋で浮かぶのは麻衣の顔ばかりだった。

 笑った顔怒った顔

 赤くなった顔泣いた顔

 体にもたれてきた寝顔

 キスを受け入れた後の顔

 忘れたくても忘れたくても全然頭から離れなかった。

 まだ腕に残る麻衣のぬくもりを抱きしめる。

 もしかしたら戻って来るかもしれないと耳をずっと澄ましていても玄関の開く音は聞こえない。

 どのくらいそうしていたのかも分からずに陸は立ち上がった。

「くそ…素直じゃないのは可愛くないんだぞ…」

 陸は呟いた。

 立ち上がるとまだ熱があるせいか少しふらつく。

 おぼつかない足取りで部屋を出ようとすると足に何かが当たった。

「バカだなぁ…また落としたのかよ…」

 床に転がる携帯を拾い上げた。

 思い返せば初めて会った時も携帯を落としていったのがきっかけだった。

 無理矢理車に乗せたらすごい怒って、そのくせ勝手に車の中で寝てなかなか起きなくて…。

 美味しそうに食べてる顔が可愛くて…でもその後すっごい怒ったくせにすぐに機嫌直してくれて…。

 あ…勝手に待ち受け変えたって怒ってったっけ。

 たった二日間の思い出を引っ張り出して胸と目頭が熱くなる。

 陸は何気なく携帯を開くと目を疑った。

「やっぱり…お仕置き決定でしょ」

 携帯の待ち受けはあの日の陸の写真のままだった。


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