『-one-』

猛アタック P8


「早く治してね」

 麻衣は溢れそうな涙を堪えて陸の腕を解く。

 なるべく陸の顔を見ないように立ち上がった。

「薬はテーブルの上に置いておくから後で飲んでね」

 気を張ってないと言葉が震えそうになる。

 キュッと唇を結んだ。

「…っんだよ!何だよそれっ!!」

 ベッドにもたれかかった陸が大きな声を出した。

「説明しろよっ!」

「なぁ…麻衣!何で俺の事避けてるの?」

「俺のこと嫌いになったの?」

 悲痛な声で叫んで最後の方は声が掠れている。

 麻衣は後悔していた。

 どうして美咲に断らなかったのかどうしてすぐに帰らなかったのかどうしてまた戻って来てしまったのか。

 また顔を見て声を聞いてしまったら自分の気持ちが止められなくなる事くらい分かっていたはずなのに…。

 それでもこの恋愛はダメだと自分の中から警告される。

「…うん、嫌いになったの」

 麻衣はドアを見つめたまま答えた。

 もう毎日胸が苦しくなるような相手のことばかり心配するような恋愛はしたくなかった。

「麻衣…なんで?」
 陸の声が震えている。

「麻衣…俺の目を見て言って?」

「ねぇ?嘘だろ?こっち向いてよ…」

 麻衣がゆっくりと陸を振り返ると真っ直ぐに見つめ返された。

「俺の目を見て言ったら…信じるから」

「…嫌い…になったの」

 二人の視線が絡んで目を逸らす事は出来なかった。

「本当に?会いたくなかった?声も聞きたくなかった?」

「…うん」

「もう声を聞くのも嫌なぐらい嫌い?」

「…うん」

「じゃあ、俺が嫌いだから二度と会いたくないって言える?」

 涙が零れてしまいそうになる。

 麻衣は俯いてギュッと下唇を噛み締めた。

「言えないんだろ?嘘つくなよっ!!!!」

 ビクゥッ!!

 陸の怒鳴り声に驚いて鞄を落として中身が床に散らばった。

 しゃがみこんで拾いながら口を開いた。

「…陸がき…らいだから…会いたくな……」

 言い終わらないうちに涙が零れてしまった。

 麻衣は中身を鞄に放り込むと走ってマンションを飛び出した。

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