『-one-』

SWEETNESS P8


「なんで怒ってんの?」

 あまりに冷たい態度を見せた麻衣に陸はわずかだが声を荒げた。

 突然のことに全員の動きが止まった。

 何事かと麻衣と陸の顔を見た。

(なんで分からないの!?)

 陸の態度に麻衣は苛立ちを感じた。

「ど、どうしたの?怒ってなんかないのにー変な事言うからみんなびっくりしてるじゃないーあはは」

 何とかこの場を誤魔化そうと麻衣は作り笑いを浮かべる。

「変なのは麻衣だろ?」

 怒気を含んだ陸の声が響く。

 今度こそ誤魔化すことはもう出来ない。

 麻衣の頭の中は真っ白になった。

「なーにしてんの?夫婦喧嘩なら家に帰ってからやりなさいよー」

 美咲が呆れた声で笑った。

「み、美咲ッ…な、何言って…」

 麻衣の顔はみるみるうちに青ざめていく。

(どうしよう…)

 どんな反応をしているのか怖くて塔子の顔を見ることも出来ない。

「塔子ごめんねー。いつもは腹立つくらいイチャついてるのにあんなん見たら気分悪いでしょ?」

「ケンカするほど仲がいいって言うじゃない。それに…たぶん麻衣さんは何か勘違いしてるみたいよ?」

 麻衣はポカンと口を開けて美咲と塔子を見た。

 塔子はクスクス笑いながら麻衣を見ると美咲に目配せをした。

(あれ?どういうこと?)

 この中で一番察しのいい誠が口を開いた。

「麻衣さん、大丈夫ですよ。美咲さんと麻衣さんのテーブルに同席するということは事情はすべて承知の上での事なんですよ」

 麻衣は体の力が抜けてしまった。

(今までの私の苦労は…?)

「そうそう。お二人が“深い関係”なのは美咲から聞いてて知ってたの。あの陸くんがベタ惚れになってる麻衣さんを一度見てみたいと私からお願いしたのよ」

 塔子が申し訳なさそうに事情を説明した。

「…みんな知ってたの?」

 悠斗と響が頷いた。

 知らなかったのは麻衣だけで一人で余計な心配事を抱えていたらしい。

「もしかしてバレないように気使ってたの?」

「だ、だって…」

 驚いた陸は麻衣の顔を覗き込んだ。

 一人だけ事情を知らされてなくて空回っていた事に恥ずかしさと同時にホッとしてようやく微笑んでみせた。

「俺の為?あーもう…なんでそんなに可愛いの。ね、そう思うでしょ?塔子さん」

「ほんと…美咲と同い年とは思えないわね」

 塔子は微笑ましいといった感じでクスクス笑う。

 陸は麻衣の髪をいじりながら恥ずかしそうに俯く麻衣のこめかみの辺りに唇を寄せた。

「あーーーもーーー!!早く引いて下さいッ!」

 イチャつく二人の間に悠斗は割り箸を持つ手を滑り込ませた。

 放っておいたら際限なく続けられる二人のイチャイチャに我慢ならないとばかりに悠斗は鼻息を荒くする。

「悠斗…お前気が利かねぇーな」

「フンッ!麻衣さんも早く引いて下さい!今日はとことん付き合ってもらいますからね!」

「わ、分かりました…」

 どうやらさっきのリシャールがいい感じで悠斗を壊し始めているらしい。

 場は一気に和やかな雰囲気へと変わった。 

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