『-one-』

SWEETNESS P3


「ん…」

 ポッキーを咥えた悠斗はニコニコしながら顔を近づけた。

 口元まで近付けられたポッキーにもう逃げ場はない。

(すぐ折っちゃえばいいんだから…)

「負けた方はこれを一気ねぇ〜」

 美咲はリシャールを惜しげもなくグラスに注ぐと二人の方へと押した。

 グラスになみなみと注がれて今にも零れそうだ。

 麻衣はたまらず大声を上げた。

「そんなの無理!」

「勝てばいいのよー。勝・て・ば!」

「…うぅっ」

 麻衣は何も言い返せず恨めしげな顔をして美咲を睨んだ。

(酔ってる。それもすごく上機嫌に酔ってる…)

 長年の付き合いだからこそ麻衣には美咲が意地悪をしてるのではなく酔って調子に乗っているのだと分かった。

 それがどんなにたちが悪いかということも今までその身を以て思い知らされてきた。

 前方からは引くつもりのない悠斗の視線、横からは怖いもののない美咲の視線。

 麻衣は覚悟を決めて差し出されたポッキーを口に咥えた。

 悠斗はこの時間を楽しむようにわざとゆっくり食べ進めた。

(どうしよう…このままじゃ…)

 少しずつ二人の間隔が狭まっていく。

 悠斗とのキスかリシャールか…麻衣にはもう迷っている余裕はなかった。

(仕方がないよね…非常事態だもの)

 麻衣が覚悟を決めて目を閉じた瞬間ポッキーに不自然な力が加えられた。

 一本のポッキーは見事に二つに絶たれて悠斗と麻衣は顔を上げた。

「面白そうなことやってんじゃん。俺も混ぜてよ」

 白いシャツに光沢のある薄いグレーのスーツを着た陸が立っていた。

「陸ーーー」

「陸さんっ!?」

 ポッキーを口の中に放り込んだ二人が口々に陸の名前を呼んだ。

 陸は笑顔で「よっ!」と手を上げた。

「同伴じゃなかったんすか!?」

 悠斗は陸の後ろを覗き込み誰も居ないことに驚いていた。

「あーなんか急用とかって振られちゃったんだよね」

 残念と言いながらその顔はちっとも残念そうじゃない。


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