『-one-』

しっぽり外デート P2


 こんな事になった事の発端は一週間前のこと。

 陸のこんな一言がきっかけだった。

「俺って…麻衣にお酌してもらった事ないよね?」

「うん?まぁ…そうだよね」

 陸はホストという職業柄やはり女性にしてもらう事は少ない。

 付き合いでキャバクラやスナックにいけば客の立場になるからそういう事もあるらしい。

 けれど麻衣と二人で部屋で飲む時も仕事じゃなくても陸が用意する。

「じゃあ…お酌しようか?」

 麻衣が指を差したのは陸の目の前に置いてある缶ビール。

 陸はジッと缶ビールを見る。

「や…それもなんか違うよね」

「お酌っていうと…私の場合会社の飲み会とかで瓶ビールを持ってお疲れ様です〜ってイメージだけど…陸は?」

「うーん…まぁそれも悪くないんだけどさ…」

 陸は腕を組んで少し考えている。

「やっぱり座敷かな?」

「座敷?」

「そそ。夏なら少し涼しげなガラスの徳利でお酌してもらいたいなぁ…。着物姿で少し袂を気にしながらとか…」

「なんか…芸者さんとか旅館の若女将とかみたい…」

 陸は麻衣の言葉にプッと吹き出した。

「確かに!でも麻衣にそんな風にされたらどんな酒でもすっごい美味いだろうな」

 陸は手を伸ばして麻衣の頭を引き寄せる。

 唇が触れ合うほど顔を近づけた。

「ね…してくれる?」

「いいけど…ここ和室ないよね」

「じゃあ…あそこに行こうか。麻衣がこの前雑誌見て行ってみたいって言ってたお店」

 それは麻衣がフリーペーパーをめくっていた時に見つけたお店だった。

 カップル用の個室がある豆腐と炙り焼きがウリの居酒屋。

「麻衣もあんまり堅苦しいところ嫌だろ?来週の木曜日休みだから予約入れておくね」

 陸はニッと笑ってチュッとキスを落とした。


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