『-one-』

しっぽり外デート P1


 麻衣は地下鉄を降りた。

 ホームで電車を待っていた人達が麻衣の姿に足を止めた。

(は、恥ずかしい…)

 家を出て電車に乗ってからずっと視線を集めていてようやく慣れてきたのにさすがに地下鉄の栄駅は人の数が違う。

 自然と麻衣の足取りが早くなる。

 夕方のラッシュの中でただ一人の浴衣姿。

 麻衣は去年買った黒地にピンクの花が描かれた浴衣ではなく母の美紀が用意した麻の入った生地で薄いグレーにシックな花柄の浴衣を着ている。

 髪はアップにしてとんぼ玉のついたかんざしを挿し手には浴衣用のカゴバッグを持っている。

 いつもは子供っぽく見られがちの麻衣も今日は大人の女性らしい色香を漂わせていた。

 夏の始まりを告げる花火大会も来週に控え梅雨も明けないこの時期にはまだ浴衣は早い。

 麻衣は少し俯き気味に待ち合わせの場所へ急ぐ。

 足元を気にしながら地下鉄の階段を上がりグルッと辺りを見渡すと軽く手を上げて合図する陸の姿。

 黒のシングル3ツボタンのサマースーツに身を包みきっちりネクタイをしめている。

 上げた袖口からはチラリと見える高級時計。

 今日はホストではなく商社勤めのイメージだった。

「ごめんね…待たせちゃった?」

 麻衣は地下鉄の出口から少し小走りで陸に駆け寄った。

 陸は微笑みながら優しい仕草で麻衣の前髪を直す。

「こんなに素敵な麻衣の為ならいくらでも待てるよ」

 やはり口を開けばホストだと分かる。

 麻衣は口元に笑みを浮かべ照れ隠しをしながらハンカチで汗を抑えた。

「少し歩くけど平気?」

「うん。大丈夫」

 陸は麻衣の足元を気にしながら声を掛けた。

 麻衣が頷くと歩き始めた。

 下駄の軽やかな音が慌しい街に鳴り道行く人は二人の姿を振り返る。

 麻衣は恥ずかしさで俯くが隣を歩く陸は堂々と胸を張っていてその姿がより陸を輝かせていた。

「手掛けていいよ。その方が歩きやすいでしょ?」

 陸が左手を差し出すと麻衣は肘の下辺りに手を掛けた。

 いつもならギュッと指を絡めて手を繋ぐがべったりとくっ付いて歩く陸が今日は大人の雰囲気でリードをしていた。

 五分ほど歩いて和食のお店に着いた。

「予約している中塚ですが」

 店員の女性がホゥッと陸に見惚れているのが分かった。

 麻衣が少しムッとして掛けている手に力を入れると陸は麻衣の顔を目を細めて見下ろすと顔を屈めた。

「言い忘れてた。俺の恋人は何を着ても似合うんだね。いつもは可愛いのに今日は綺麗過ぎてドキドキするよ」

 耳のそばに顔を近づけて囁いた。

 だがその声は前に立つ店員の女性の耳にはっきりと届いたらしい。

 陸と麻衣の顔を見るとサッと背中を向けて歩き出した。


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