『-one-』

猛アタック P6


 玄関に立ったまま麻衣は動けずにいた。

 自分の呼吸する音がやけに大きく聞こえる。

「麻衣?」

 もう一度呼ばれた。

 聞き間違えるはずがないし忘れるはずがない声が自分の名前を呼んでいる。

 麻衣は返事をする事も振り向く事も出来なかった。

(何で…いるの?)

 久し振りに聞いた声に麻衣の心臓は狂ったように動き始めた。

 呼吸が苦しくなる。

 後ろからだんだんと気配が近づいてくる。

(ダメ…早くここから出なくちゃ…)

 会ったらいけないと思った。

 声を聞いてこの状態で顔を見てしまったら自分がどうなってしまうか分からなかった。

 麻衣はようやく体を動かして玄関のドアノブを掴む。

「行かないで…」

 突然背中が温かくなり熱い吐息が髪にかかる。

 麻衣はドアノブを回す事が出来なかった。

「麻衣…会いたかった…」

 少し掠れた声が胸を締め付けて抱きしめるその手を払えなかった。

 陸の体がズルッと落ちて床に倒れこむ。

「陸!?」

 麻衣は振り返りとうとう名前を呼んでしまった。

 触れた陸の体は燃えるように熱くて汗をびっしょり掻いている。

 熱が高いせいか朦朧としている陸をどうにかベッドまで運ぶと麻衣は薬を飲ませて汗を拭いた。

「こんなになるまで何やってるのよ…」

 苦しそうな陸の頬を撫でた。

 荷物の中に入っていた熱用のシートでは間に合わずタオルを氷水に浸して額に当てる。

 着替えまではどこにあるのか分からずに汗を何回も拭いた。

 麻衣は何時間も付きっきりで側にいると陸はようやく静かな呼吸になって寝息を立て始めた。

「こうやってるとほんとに子供みたい」

 ベッドの横に膝立ちになって幼い陸の寝顔を覗き込む。

 しばらく眺めていると陸が目を開けた。

 寝惚けているのかボーっとしながら熱で潤んだ瞳で麻衣のことをみつめた。


[*前] | [次#]


コメントを書く * しおりを挟む

[戻る]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -