『-one-』

猛アタック P5


「お願い!この通りだから…ねっ」

 もう10分以上もあの美咲が私に頭を下げている。

 麻衣は途方に暮れていた。

「急なトラブルで私が居ないとダメなのよ」

 美咲の言い分は分かるけれどどうしても納得が行かずに首を縦に振れずにいた。

「こんな事頼むのはおかしいけど頼めるのは麻衣しかいないの」

 真剣な顔をして何度も頭を下げる。

 美咲の頼みというのは元々は誠からの頼みだった。

 ONEのスタッフが風邪を引いて起き上がれないからご飯と薬を届けて欲しいというのだ。

 そして頼まれた本人の美咲は仕事で緊急事態発生。

 麻衣の元へとやって来た。

「置いて帰って来るだけでいいから!」

(これ以上あそこの人とは関わり合いたくないんだけど…)

 それでも10年以上の友達の頼みを断る事も出来ずに麻衣は引き受けてしまった。

 紙に書かれたマンションに着いた。

 立派なマンションを見上げてため息が出る。

(せっかくのお休み…なんですけどねぇ…)

 気が滅入りながら渡された鍵でオートロックを解除してエレベーターで上がる。

 高級マンションのせいかエレベーターの音も静かな気がした。

 いくら美咲の頼みとはいえよくよく考えてみたら知らない男の人の部屋に行くなんて自分でも信じられない。

「鍵開けて、荷物置いてくるだけでいいからね」

 美咲の言葉を思い出した。

 部屋の前に立つとため息がまた出た。

(ほんの一瞬だもんね…)

 覚悟を決めて鍵を開けドアを開けた。

「おじゃまします…」

 一応小さい声で挨拶をしてから中に入る。

 男の人の部屋にしては玄関はとてもきれいだった。

 ホストらしく靴が何足も並んでいるのを見ながら奥へと続く廊下を歩く。

 部屋は2LDKだろうかリビングもダイニングもきれいに片付けられえている。

 というより物がほとんど置いてない。

 麻衣はダイニングテーブルの上に渡された荷物を置いて玄関へと戻った。

「…麻…衣?」

 呼ばれて体が凍りついた。

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