『-one-』

猛アタック P4


 これで良かったんだと思った。

 陸はまだ若くて一時の感情が盛り上がっているだけだと思った。

 そのうち私の事なんてキレイに忘れてしまうだろうと電話もメールも出ないで普通の毎日を過ごした。

 日を追うごとに麻衣の心も正常に戻りつつあった。

 そんなある日久し振りに美咲からメールが届いた。

 ランチのお誘いで麻衣はすぐにOKの返事を返した。

 週末、いつも行くパスタ屋で待ち合わせをした。

「久し振りだね〜」

 食事をしながら仕事の事や共通の友人の近況報告などくだらない話をして久し振りにたくさん笑った。

 食事を終わってデザートを食べている時に美咲が口を開く。

「麻衣、もうONEには行かないの?」

 その言葉に胸がドクンと打つ。

 忘れてたわけじゃないし忘れようとしてたわけじゃない。

 ただ思い出さないようにしていた。

「行かないよ。私はあーいうのは向いてないから」

「でも陸くんとは楽しそうにしてたよね?」

「そ、そうかな…」

 久し振りに“陸”って言葉を聞いた。

 胸の鼓動が途端に早く打ち始める。

 一日の回数は減ったものの毎日のようにメールが来る。

 電話は着信拒否にしてしまった。

「この前久し振りにONEに行ったんだけどね…」

 そんなつもりもないのに美咲の言葉に耳を傾けている自分がいる。

 何の話を期待しているんだろう。

「陸くんちょっと変だったんだよね…。なんか元気がないっていうか憂いのある表情が妙に色っぽいっていうか…。初めて酔い潰れるとこ見たし」

(何してんの…ホストのくせに酔い潰れるまで飲むなんて…)

「何かあったのかなぁ?」

 麻衣はもう上の空だった。

 頭の中は陸の事でいっぱいで他のことに気を配る余裕がなかった。

 店を出るまでその調子で美咲がずっと麻衣の事を観察している事にも気付かなかった。

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