『-one-』
男の責任!? P23
どのくらいそうしていたかは分からない。
麻衣が寒そうに体を震わせるのを見て布団を掛けて寝かせると自分も寄りそうように横になった。
「そっか…違ったんだ」
すっかり熱も醒めてしまった陸は麻衣の髪を撫でながら小さく呟いた。
そっか…妊娠してるわけじゃないんだ。
自分の中にある複雑な感情を麻衣に悟られそうで視線を合わせられない。
「ごめんね?」
「麻衣が謝る事ないよ。俺が先走っただけだし…」
お互いに口数が減り気まずい雰囲気になりつつある。
けれど何て声を掛けていいのか分からなかった。
「ストレスとかで遅れてるだけだって…。がっかりさせちゃったよね?赤ちゃんじゃなくて…」
「いや…あ、それは…」
はっきり答えられずに言葉を濁した。
こういう事に対して正直な気持ちを伝えて麻衣を傷つけてしまわないだろうか。
陸は上手い言葉も掛けられずに黙って隣にいる事しか出来ない。
「私ね妊娠してるかもって思った時はさすがにどうしようって思ったけど、出来てたら嬉しいなって心から思ったのね」
陸の気持ちを察したのか麻衣が話を始めた。
「検査して妊娠してないって分かった時…残念だなって思ったけどでもホッとした自分もいたの」
麻衣の声は小さく不安そうだった。
陸は麻衣の頭の下に腕を差し入れると優しく抱き寄せて髪を撫でた。
「ごめんね…」
腕の中で更に小さな声で呟いた。
「良かった。俺も同じだったもん」
「えっ?」
腕の中の麻衣が顔を上げると陸は額にキスをした。
「子供出来たかもって思ったらすっげぇ嬉しくて俺も親父になるんだ!って思ったけど…さっき違うって聞いた時さ…なんかホッとしたんだよね」
ごめんね、と小さな声で陸が謝った。
「でも勘違いしないでね。子供が欲しくないとかじゃないんだよ?麻衣との子供はすっげぇ欲しいんだよ」
誤解が生まれるのだけは避けたかった。
決して自分が結婚や子供とかから逃げてるわけじゃないって事は分かって欲しいと思った。
「何て言うのかな…まだ準備が出来てないっつーか。俺もまだ将来がハッキリしないっつーか」
自分の気持ちを伝えないのに上手い言葉が見つからない。
どうやったらこの気持ちを伝えられるんだ?
陸はそれ以上は何も言えず押し黙ってしまった。
「あのね…美咲に言われたの。手離しで喜べる環境になってから作りなさいって。そういう事だよね?」
麻衣が穏やかな表情で微笑んだ。
自分の気持ちがちゃんと伝わっている事に安心して陸はようやく笑顔を見せた。
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