『-one-』
男の責任!? P18
笑って酒を飲んでいても頭の中はやけにクリアだった。
いい事って何だよ。美咲さんがやけに嬉しそうに祝杯だと言うのが気に掛かる。
しかも麻衣に関係がある事なのは間違いがない。
陸は観察するように麻衣の様子を伺う。
「(酔うと面倒だから)あまり飲まない方がいいんじゃない?」
「これぐらい大丈夫だって」
美咲と麻衣のやりとりに耳を傾けながら陸はドキッとした。
やっぱり妊娠するとアルコールとか控えた方がいいって事を注意してるんじゃないか?
陸は敏感に二人の会話に反応した。
「そ、そうだよ。100%ジュースにしとけよ」
「えっ?どーしたの急に」
グラスを取り上げられてびっくりしたように麻衣が陸を見た。
「飲みすぎは良くない」
陸は勝手にジュースをオーダーすると麻衣のグラスを自分で飲んで空にした。
「もう陸までー」
「(また倒れて抱き着いたりしないか)心配になる気持ちは分からないでもないけどねー」
「やっぱり酒控えた方がいいんですか?」
「えっ?だって…飲みすぎて後で大変な事になるの見てるし」
美咲とのやりとりで陸の中の疑問が徐々に確信に変わっていく。
黙って話を聞いていた誠が何かに気付いたかのようにハッとした顔で陸を見た。
すっかりホストの姿はなくなっている。
「ちょっと待て…まさか本当に…」
「誠?どーしたの?」
動揺する誠に美咲が不思議そうな顔で見た。
「ケホッ…」
周りで吸っているタバコの煙で麻衣が煙たそうに顔をしかめた。
妊娠中のタバコは体に良くないんだったよな。
「麻衣、そろそろ帰ろう」
「え?まだ早いからいいよ」
「いや…あんまり長居しない方がいいよ」
陸は麻衣の手を掴んで立ち上がった。
「じゃ、お先にな」
「えーっ、まだ早いじゃないっすか」
「独り占め反対ー!」
ブーイングが起きるのも気にも留めずびっくりしている麻衣を立たせると誠の顔を見た。
言葉は交わさなくてもお互い言いたい事は伝わった。
数秒間視線を合わせると陸はニッと笑って店を出て行った。
陸が出て行った後珍しく誠がため息を吐きながらソファに寄りかかった。
「客の前でため息ってどーいうつもりよ」
ムッとした表情で美咲が誠の耳を引っ張った。
面倒くさそうに体を起こした誠が美咲の顔をジッと見た。
「やっぱり麻衣ちゃんって子供出来たのか?」
誰にも聞かれないように小さな声で耳打ちをした。
驚いた美咲が慌てて誠の口を塞いで周りに聞かれていないか確認をした。
「やっぱりって…陸くん知ってるの?」
「親父になるかもって喜んでんぞ」
「あっちゃー知ってるとは思わなかった」
二人は囁くような声で会話をした。
「で、本当んとこどーなんだよ。祝杯ってやっぱり…」
「してないわよ。あーぁ陸くんガッカリしそうね」
二人の事を心配する美咲の横で誠は嬉しそうにガッツポーズをしていた。
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