『-one-』
男の責任!? P16
「さて、祝杯挙げに行こう!」
寿司を奢った美咲が店を出ると意気揚々と歩き出した。
「あのね…祝杯って…」
「祝杯じゃない!数少ない飲み友達をもう少しで失うとこだったんだから」
上機嫌の美咲がスッキプをしながら麻衣の前を歩いている。
本当に美咲といると救われるんだよね。
はしゃぐ後ろ姿を見ながら改めて友人のありがたさを感じた。
夕方、問い詰められて生理が遅れていると打ち明けた時も最初は驚いた顔をしたけれど。
「すぐにでも検査しなくちゃダメじゃない」
と親友らしい力強い言葉にすごくホッとした。
ただ麻衣は美咲の行動力を甘く見ていた事を改めて思い知らせる事になる。
「知り合いに産婦人科医がいるから今から診てもらえばいいでしょ」
「えっ?ちょ、ちょっと…」
妊娠検査薬をすっ飛ばしていきなり産婦人科で検査なんていきなりハードルが高すぎる!
必死に抵抗はしてみたものの…。
「妊娠してても病院行くんでしょ?じゃあ陰性だったとしてこのまま来なかったら?病気かもしれないじゃない。だったら最初から病院行けば話は早い!しかも結果は正確!」
常に合理的な考え方をする美咲らしい意見だった。
産婦人科に抵抗があった麻衣もさすがにこの意見には何一つ反論出来ずに引きずられるように連れて行かれた。
そして不本意ながらいきなりの産婦人科での検査を受ける事になった。
尿検査だけで分かるのかと思いきや“子宮外妊娠”しているといけないとか言われて初めての超音波検査を受けた。
衝撃的な体験を受けながらも初めて自分の子宮をモニターで見た時の気持ちはなんとも言えなかった。
だがこんなに検査をしたにも関わらず結果は妊娠ではなかった。
「環境の変化やストレスなどで遅れる事もありますよ。何か心当たりはありますか?」
そう医師に言われた。
ストレス…陸と別れる別れないの騒動を起こした事ぐらいしか思いつかなかった。
私の体って意外にデリケートだったのかな。そう思わざるを得ない。
診察室を出ると心配そうな顔で待っていた美咲が結果を早く教えろと催促した。
「ストレスとかで遅れてるだけだろうって」
「良かったぁ」
良かったって…。
あまりに喜ばれるのも複雑な気持ちになった。
妊娠していないと分かって正直ホッとしたけれどやはり心の隅でガッカリした気持ちもあった。
赤ちゃん出来たって言ったら陸喜んだだろうなぁ…。
何となくだけれどはしゃぐ陸の姿を想像していただけにやっぱり残念だなという思いが心に残った。
「手離しで妊娠が喜べる環境になってから作んなさいよ」
病院を出てから少し落ち込み気味の私に美咲が背中を叩いて笑った。
確かに美咲の言うとおりだった。
あんなに不安で悩んでいたくせに結果が分かった途端出来てなくてガッカリだなんて都合が良すぎるにも程がある。
美咲の言葉は甘い考えから目を覚まさせてくれた。
そしてお祝い!と言って寿司を奢ってくれる美咲にお礼を言い今日は大切な友人にとことん付き合うと決めた麻衣だった。
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