『-one-』

猛アタック P2


「…衣!麻ー衣!待って!」

 呼ばれて振り返った。

 後ろから陸が走って追い掛けて来る。

「どうしたの?」

「まだ仕事あるから一緒に帰れないけど寂しくない?」

「心配ご無用。全然寂しくない」

「エェーーーッ」

 陸はがっくりとうな垂れながら道路に座り込んだ。

 いじけた様に膝を抱えている。

 通り過ぎる人が何事かと二人をジロジロと見ながら通り過ぎていく。

「ちょ、ちょっと…立ってよ」

(あーもうほんと恥ずかしい)

 無理矢理立たせると陸は麻衣の手を握った。

「ってね…本当は表の通りまで送ろうと思って」

 陸は歩き出した。

 繋がれた手は振り払えば簡単に離れてしまうような気がしたけれど麻衣はそのまま手を引かれて歩き出した。

「他の男に捕まらないか心配で仕事どころじゃなくて…」

 陸がボソッと呟いた。

 それがホストの営業トークなのか本心なのかどっちか分からなかった。

 けれど陸が珍しくタクシーを捕まえるまで何も話さなかったせいかその言葉がいつまでも胸の中に響いた。

「送ってくれてありがとう。おやすみ」

 タクシーに乗り込むともう一度陸に頭を下げた。

「うん…気をつけてね。じゃあオヤスミのチューしようか?」

 陸がふざけたように顔を突き出した。

 麻衣は顔を手で押し返して運転手に出すように言おうとすると陸が手でドアを押さえた。

「…俺今度の水曜休みなんだけど…仕事何時に終わる?」

「あ…5時半には終わるけど」

「ご飯…食べに行こ?」

「んー…考えとく」

「考えとくって!なんで意地悪言うんだよー」

「じゃあね。後でメールするね」

「後じゃなくてすぐメールしてよー!すぐだからね!」

 ドアが閉まってタクシーが走り出してチラッと振り返ると陸はまだ立ってこっちを見ていた。

 それが何だか胸を熱くさせた。

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