『-one-』
小さな嵐 P20
麻衣の実家からの帰りの車中は重苦しい空気に包まれていた。
助手席の麻衣はボンヤリと窓の外を眺めている。
「麻衣、どうしたの?」
沈黙は不安を煽り心が折れそうになる。
だからこそ麻衣をもっと近くに感じたくて名前を呼んだのに、俺の声は届かないの?
何の反応も示さない麻衣は外ばかり眺めている。
あいつの事でも考えてる?
あいつについて行けば良かったって後悔してるの?
プルッ、プルプルッ−…
沈黙の車内を破ったのは麻衣の携帯だった。
「あ、もしもし…?」
誰…?
「うん、今帰ってるとこ。うん…車…」
麻衣の声が少し緊張しているように聞こえた。
アイツだろってアイツしかいねぇだろうし。
「えっ? ううん、大丈夫」
麻衣の声が少し弾んで楽しそうに笑った。
自然とハンドルを握る手に力が入る。
「うん、じゃあ…またね」
短いやりとりを交わして電話は切れた。
「今のって…」
陸は携帯を持っている麻衣の手を掴まえて握り締めた。
「あ、奏ちゃん…」
「携帯、教えたの?」
「うん」
「どうして?」
「えっ…?」
麻衣が俺の顔を見ているのは分かるけど、俺は真っ直ぐ前を向いたまま。
麻衣の顔を見て目を逸らされるのが怖かった。
「どうして教えた?」
「奏ちゃんが教えてって言ったし」
「教えてって言われた誰にでも教えるんだ」
「違うよ!」
「じゃあ、アイツは特別?」
「陸…?」
しまった言い過ぎた。
こんな風に余裕がなくて麻衣を困らせるだけだから麻衣の気持ちが揺れるのか?
もっと俺が大人の男だったら…。
余裕がなくて焦ってるみたいで俺すげぇみっともねぇ。
陸は麻衣から手を離した。
「ごめん、何でもない」
車内は再び重苦しい雰囲気に包まれた。
時々麻衣が携帯を触る音がやけに耳障りで陸はステレオのボリュームを上げた。
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