『-one-』

小さな嵐 P17


 今のは一体なんだった?

 なんでキス…してんの?

 陸は音を立てずに2階の麻衣の部屋に戻っていた。

 目の前で起こった事が信じられず、耳にした事を疑いたかった。

 “あの時の言葉”
 “俺の嫁さんに…”

 俺の知らない麻衣の過去、二人の間にあった俺の知らない約束。

 俺の知らない…。

 俺は麻衣の事何も知らなかった。

「あ…陸、起きてたんだ」

 ドアの所に麻衣が立ってこっちを見ていた。

「あ、あぁ…うん。今起きた…」

 咄嗟に出たのは嘘の言葉。

「昨日、ごめんね?また飲みすぎちゃって…」

「もう平気?気分悪くない?」

 なんだこの会話…。

 いつかみたいだ…うわべだけの会話。

「麻衣…どうした?」

 俺の顔を見ないようにしてる理由だって分かってる。

 分かっててこんな風に追い詰めるようなやり方俺らしくないのは分かってる。

 でも…麻衣の口から本当の事が聞きたいだけ。嘘や誤魔化しはもういらない。

「ん?何でもないよ。さてと、帰る準備しなくっちゃ!」

「麻衣ッ」

 思わず麻衣を抱きしめた。

「ちょっと、陸…離してッ」

「なんで?別に恥ずかしがる事ないだろ?」

 麻衣の顎に指を添えてキスをしようとすると手で体を押されて拒まれた。

「ほ、ほら…お母さん下にいるし…」

 近付いたと思ったら離れて行く。

 まるで海の波のように。

 麻衣は俺の事が好きなはずなのに分かっているはずなのにこんなに不安になるのはどうして…。

「俺、ガソリン入れて来るね」

 そして向き合うのが怖いと思ってるのは俺。


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