『-one-』

小さな嵐 P16


「俺も今日東京に戻るんだ」

 奏太はすっきりした顔で立ち上がった。

 麻衣もそれに続いて立ち上がる。

「東京に来たら連絡しろよ。最高のコース案内してやる」

 ダメ、ちゃんと断らなきゃ。

 私には陸がいるんだから奏ちゃんの事は待てないって。

「奏ちゃん、私は…」

 麻衣が口を開くと奏太がそっと麻衣の唇の上に人差し指を当てた。

「言ったろ?今はそれでも構わないよ。だからチャンスを欲しいんだ」

 これが奏ちゃんの優しさなのかもしれない。

 陸のような強引さはないけれど、でも同じだけの強い気持ちを感じる。

 本当に大人になったんだね。

「必ず迎えに行くよ」

 奏太が一歩踏み出して麻衣に近付いた。

 心臓がドクンと跳ねたのを気付かれたくなくて思わず俯く。

 奏太の手が頬に触れてゆっくりとした動きで上を向かされると視線が合った。

「だから、今は決定的な言葉は言わないで…な?」

 切なげな表情に押されて麻衣は黙って頷いた。

 その途端胸の奥が締め付けられるほど苦しくなった。

「ありがと。さて…帰るかー!」

 奏太は明るい声で言うと玄関へ向って歩き出して麻衣もその横をついて歩く。

「じゃあ、朝早く悪かったな」

「ううん、大丈夫」

 靴を履いた奏太が振り向いた。

「言いそびれてたけどさ…キレイになったな、会った瞬間ドキッとした」

 初めて見る照れたようなはにかんだ顔。

「ばかっ、あんまジロジロ見んな!」

「そ、奏ちゃんこそっ!」

 お互い照れ隠しなのか目も合わさずに笑った。

「麻衣?」

「何?」

 声を掛けられて奏太の方を向いた一瞬だった。

 首の後ろに手を回されたと思ったら抱き寄せられて唇を奪われた。

「愛してるよ。じゃ、またな!」

 奏太が慌しく出て行った後も麻衣はぼんやりとしたままだった。


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