『-one-』

小さな嵐 P14


「あれ…麻衣?」

 朝、目が覚めるともう麻衣はベッドには居なかった。

 もう起きたのか?

 昨夜はあれからシャワーを浴びてベッドに入るとすぐに寝てしまった。

 狭いシングルベッドで麻衣を抱きしめて腕の中で眠る麻衣を見てようやく自分の元にいると安心出来た。

 麻衣を探して階段を降りて行くと話し声が聞こえた。

 その声は麻衣と奏太だった。

 陸は思わず息を殺して壁にもたれかかった。

「今日帰るんだろ?」

「うん」

 二人は特に変わった様子もなく普通に会話をしているように聞こえる。

 こんなに朝早くから…まさか約束していた?

「昨夜、アイツすげー怒ってたぞ」

「ヤキモチ妬きなの…ほら年下だし?」

 少し笑いを含んだような声。

 ヤキモチ妬きで悪かったな…。

 だいたいいつもヤキモチ妬かせてんのは誰だよ。

「ふぅ…ん、俺には好都合かな」

「何が?」

 少しの沈黙。

 その間に嫌な予感がして心臓がドクドクと音を立て始めた。

「俺は昔から麻衣が好きだよ」

 陸はゴクッと唾を飲み込んだ。

 そんな予感はしていたけど麻衣は今どんな顔をしてるんだろう、麻衣の声が聞こえないって事は驚いて固まってる?

 飛び出したいと思ったけれど足は動かなかった。

「今も変わらない。いや…こうやってまた会えてもっと好きになれた」

 麻衣、騙されんなよ。

 アイツだってホストなんだ、ホストならそれぐらい言うのは簡単なんだぞ。

「麻衣、聞いてる?」

「あっ…うん。びっくりしちゃって」

 麻衣の戸惑ったような声が聞こえて来た。

「ごめんな?」

 俺と麻衣の事を知っているのに告白?何考えてんだよ。

 麻衣は俺に惚れてんの!ベタ惚れなの!他の男なんかになびくわけねぇーっての!

「俺な、麻衣と一緒になる為にホストの道選んだんだ」

「えっ…?」

 麻衣は俺の彼女なんだからここで俺が飛び出して行ってもおかしくない。

 そう思っても足はまったく動かなかった。


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