『-one-』
小さな嵐 P11
俺、いつからこんなに小せぇ男になったんだ。
「はぁー…」
陸は手の中でグラスを手持ち無沙汰に動かしながらため息を吐いた。
「酒がまずくなるだろ」
手の中からグラスを抜き取られて陸は慌てて顔を上げた。
色の薄くなったグラスの中身を顔の前に掲げて揺らしながら笑顔を向けたのは麻衣の父親の竜だった。
今日もまた竜に連れられて経営している店の一つのホストクラブに来ていた。
「どうした?また喧嘩でもしたのか?」
「またとか言わないで下さいよ。って喧嘩にでもなった方がまだマシなんでしょうけど…」
陸はソファの背もたれにもたれたまま天を仰いだ。
「ホストが情けねぇ顔してんじゃねぇぞ」
「はぁ。…すんません」
隣りに座った竜に頭を下げて苦笑いを浮かべた。
俺ってとことんホスト失格だな。
「そーいや、アイツにあったって?」
竜は意味ありげな笑みを浮かべながら陸に視線を送ると陸は感情を隠しもせずに嫌そうな表情をした。
「正直な奴だな。で、いい男だっただろ?」
竜の質問の意図が分からず答える事が出来ない。
まさか麻衣には俺よりもあの男の方が相応しいと思ってるとか?
「アイツになら俺の店を任せられるって思ってたけど、まさか麻衣の結婚相手がホストなんてアイツもさすがに動揺してたなぁ」
竜に肩を叩かれてハッとした。
それって…ホストとしても認めてるって事?
陸は背中がスーッと寒くなるのを感じた。
あの男は間違いなく麻衣の事が好きで、幼なじみだって言ってる麻衣だってたぶん恋愛感情を持っていたと思う。
そんな二人が再会したら…。
「どうした?ビビってんのか?」
答えられずに下唇を噛んだ。
自分の気持ちをズバリ言い当てられて陸は激しく動揺していた。
そんな陸の様子を見ながら竜はさらに追い討ちを掛けるような言葉を口にした。
「アイツ…奏太はな、俺の跡を継ぎたくてこの世界に入ったんだ。そんなアイツの気持ち無駄にしたくねぇって思うけどな」
陸は返す言葉も見つからずにただ黙っているしか出来なかった。
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