『-one-』
小さな嵐 P10
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「ホストなら当たり前なんじゃねぇ…の?」
喉の奥が凍りついてしまったみたいに思うように動かせなくて上手く声が出せない。
陸は頭も足も指の1本さえも動かせずにただジッと座っている。
「えーでもぉ!昔はすっごい泣き虫でね、小学校の時なん…っ」
「麻衣っ!」
陸は麻衣の言葉を遮るように声を出した。
突然の大きな声に驚いた麻衣が目を丸くしているのに気が付いた陸は慌てて笑顔を作った。
「ケーキ食べよ?コーヒー冷めるよ」
「え?あ…うん」
陸は何事もなかったようにコーヒーに手を伸ばしている。
心の中は強烈なブリザードが吹き荒れていた。
もう少しで麻衣を押し倒して俺の事だけが好きだと何度も何度も確認してしまうところだった。。
はぁーぁ…来なきゃ良かった。
「陸、やっぱり気にしてるんでしょ」
まだケーキに手をつけていない麻衣の視線がジッとこっちを向いているのに気が付いて顔を上げた。
「あーやっぱりチーズケーキのが良かった?」
何となく気まずくて思い付きでケーキを交換しようと手を伸ばすと麻衣がその手を掴んで止めた。
「ううん、モンブランでいいけど…ってそうじゃなくってね?」
いや…だからこんな時なのに自分の食べたいケーキを主張するって俺とケーキとどっちが…。
って俺…ケーキにまで嫉妬かよ?何やってんだよ…。
「俺がさっきの奴の事まだ気にしてると思ってんの?」
「違うの…?」
「だって気にする理由とかないだろ?」
嘘だ。
そんなの嘘だ、本当はすっげぇ気にしてる。
俺の腕の中に閉じ込めて一歩も出さずに他の男なんかに触らせたくない。
だけど…そんな格好悪い事言えるかよ…。
「良かった。さっきから機嫌悪いから怒ってるのかなっと思って」
ようやく麻衣が笑顔を見せてケーキに手を伸ばした。
麻衣には俺だけだよね?
いつもと同じ麻衣の笑顔を見ながら陸の心は言い知れぬ不安を感じていた。
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