『-one-』
小さな嵐 P9
家に入ってから陸はすっかり塞ぎこんでしまっている。
麻衣の母はその様子を見て気を利かせるようにリビングから出て行った。
二人はケーキにも手を付けずに黙り込んでいだ。
簡単じゃんか、さっきのは誰?って軽いノリで聞けばいいだけじゃん。
陸が塞ぎこんでいる原因はこれ。
なぜだか今回ばかりは意識してしまって上手く切り出せずに黙り込んでしまっている。
しかも自分から言い出せないから麻衣の方から切り出してくれないかと待っているのだが、麻衣も異変を察知して様子を伺いながら黙っていて埒が明かない。
「あの…」
「あのさ…」
なんと間の悪い事に二人同時に切り出してしまって思わず口をつぐんでしまった。
「麻衣から言って?」
陸はすっかり小さくなってオドオドしていた。
ホストの時はいつも自信に溢れて言葉一つとっても迷う事のない陸なのに麻衣の事になると途端に情けない男になってしまう。
結局俺はまだ自信がないんだよな…。
「奏ちゃんの事気にしてるでしょ?」
あー気にしてるよ。
めちゃめちゃ気にしてるってば!分かってるくせにどうしてそういう事平気な顔して言うかなぁ。
「隣の家に住んでて幼なじみだったんだよ?」
「仲良さそうだったもんねー」
陸は不貞腐れた顔をしながら口を尖らせた。
「昔はもっと気が弱くて優しかったんだけどねー。学校の先生になるって言ってたくせになんと!今はホストやってんだってー笑っちゃうでしょ?」
全然っ笑えない。
何そんなにしゃべってんの、何そんなに嬉しそうな顔してんの?
「へぇ…ホストやってんだ」
「うん!しかも東京のお店なんだって!」
何それ…自慢?
俺は東京のホストじゃないから?って何で自分の男みたいな感じで自慢してんの?
陸はだんだんと苛立ちが抑えられなくなり落ち着きなく足を組み替えている。
「へぇ…すごいね」
「ねぇ?昔よりずっと格好良くなっててやっぱりホストかなぁって思った」
陸の体を強張らせて目を伏せた。
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