『-one-』

小さな嵐 P7


 麻衣の家の前に一台の車が止まった。

 大きい黒い車から降りたのはサングラスをかけてファーのついたダウンジャケットを着た陸だ。

 手には来る途中で買い込んだお土産でいっぱいになっている。

「思ったより早く着いたな」

 麻衣の忠告通り昨夜はなるべく残らないような酒の飲み方をしたせいか寝過ごす事もなく土産を買う時間も十分だった。

「陸くーん!いらっしゃーい」

 家のほうから明るい声が聞こえて振り向くと麻衣の母親の美紀が手を振りながら駆け寄って来る。

「ご無沙汰してます」

 陸は礼儀正しく一礼して挨拶をする。

「そぉよー?もっと顔見せに来てね。目の保養になるんだから」

 さっそく美紀の言葉にタジタジの陸は思わず目を泳がせてしまう。

「あの…麻衣は?」

 普通だったら真っ先に麻衣が出迎えてくれなきゃおかしいだろ。

 いつ着くと連絡を入れてなかったからまぁ仕方がないけどな。

 麻衣の大好きなケーキを買ってきた。

 何よりも麻衣の喜ぶ顔が見たいと思っていた陸にとっては少々拍子抜けだったようだ。

「今ちょっと出掛けてるけど、もう帰って来るんじゃないかな?」

 出掛けてるー?

 俺が来るって分かってるのに何で出掛けてんのか意味分かんない、やっぱり家出る時に連絡すりゃ良かった。

 ほんと麻衣はそういう所が淡白っつーか…。

 愛しい彼女のちょっと冷たい仕打ちに陸は軽く落ち込んだ。

「あ、ほらっ!ちょうど帰ってきたみたいよ」

 美紀に肩を叩かれて指差す方を見ると賑やかな声を上げた自転車がこっちへ向って来る。

 ハンドルを握っているのは麻衣だ。

 だが次の瞬間、陸は自分の目を疑った。

 麻衣の後ろには自転車を跨ぐように座る男の姿が見えた。

 は…誰だ?

「りーくー!!」

 陸の姿に気が付いた麻衣が手を挙げて大きく振っているが陸はそんな事どうでもよくて後ろの男しか見えてなかった。

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