『-one-』

小さな嵐 P4


 奏ちゃんとは家が隣同士で同い年って事もあってまるで兄妹のように育ってきた。

 小さい頃は優しくてでもちょっと気が弱くて、それなのにいつも強がって反泣きで私の前を歩いてた奏ちゃん。

 麻衣は昔の事を思い出すと思わずクスッと声を出して笑った。

「なぁーに、笑ってんだよー」

 麻衣を乗せて自転車をこいでいた奏太は顔を捻って麻衣を見上げた。

「んー?ほら小学生の時に野良犬に追い掛けられて、奏ちゃんが麻衣ちゃんは俺が守るー!って」

「余計な事ばっか覚えてんなぁ?」

「忘れないって!ガタガタ震えてながら私の前に立って手を広げた途端犬が飛び掛って来て…クスクス」

 麻衣は笑いを抑えきれずに肩を震わせた。

「ばーか。守ろうとした俺の勇気に敬意を払えっての!」

「分かってるよー!奏ちゃんが私を守ってくれたんだもんねー」

 あの時奏ちゃんは体を張って私に覆いかぶさってくれたおかげで私は無事だったけど奏ちゃんはお尻を噛まれたんだよね。

 目に涙を浮かべてプルプル震えながら全然痛くないって笑ったんだよね。

「笑ってばっかりいると振り下ろすぞ!」

 奏太がハンドルを左右に振って自転車を揺らすと麻衣は声を上げながら奏太の首にしがみついた。

「ばっ、ばかっ!く、首締めるなっ!」

 ごほっごほっとむせながら麻衣の手を叩いている奏太にわざとしがみついた麻衣は楽しくて仕方がないって顔をしている。

「ねー何年ぶりだっけ?」

「高校卒業…以来か?俺はあんまこっち帰ってきてなかったしな」

 そっかぁ…高校卒業以来って事は10年くらい経ってるんだ。

 そのせいかな?奏ちゃんは昔の面影はあるけれどやっぱりグッと大人っぽくて男っぽくなった気がする。

「お前、まだ時間あんの?」

「んー大丈夫だよ」

 奏太に声を掛けられた麻衣は時計を見た、まだ昼を少し過ぎたくらいで陸もまだ来ないだろうと思って返事をした。

「それじゃあもう少し付き合えよ!」

「いいけど、どこ行くの?」

 奏太が急に力強く漕ぎ始めて身体が一瞬後ろへグラッと倒れる。

「行けば分かるっ!しっかり掴まってろよー飛ばすぞっ!」

 その声と共に前傾姿勢になるとまるで競輪選手のように足を動かすと麻衣の身体に冷たい風が叩き付けられる。

 麻衣は振り落とされないように奏太の肩をしっかりと掴んだ。

 まるで二人は子供の頃にタイムスリップしたようにはしゃいでいた。


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