『-one-』
零れた想い P76
電話の向こうの声は今にも泣き出しそうだった。
こういう事は初めてじゃないけど慣れもしない。
「ごめん…」
「私ならずっと陸くんと一緒に居られる!それにいつも優しくしてくれたでしょ?あの日だって彼女より私を選んだんでしょ!」
奈津美は興奮してつい口走ってしまった。
「あの日って?俺が会う事知ってたの?」
「…っ、だって、だって…私本当に陸くんの事が好きだったから…どうしても彼女の所に行って欲しくなくて…」
「わざと…行かせなかったって事?」
「……っく…ご、ごめんなさい」
あの日行けなかったせいで!!
泣いている電話の相手に怒鳴ろうと思った時に腕の中にいる麻衣が震えているのに気付いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
電話の向こうでは何度も謝っていたけれど陸は携帯を顔から離した。
「麻衣…」
片手だったけれど強く抱きしめる。
もう同じ事は繰り返したくない。
俺は…誰よりも麻衣を大事なんだよ。
「麻衣、俺を信じて」
唇を寄せて耳元で囁くと髪の上からキスをしてもう一度携帯を耳に当てた。
「分かったから、もういいよ。」
泣き声が収まるのを待っていると先に奈津美が口を開いた。
「彼女とヨリを戻すの?そこまで好きなの?一人の女に執着するなんて…」
「ホストのくせにみっともないだろ?でも彼女じゃないとダメなんだ」
「………」
「傷つけてごめん」
奈津美は辛くて電話を握り締めて唇を噛んだ。
「陸くんに彼女がいるってお店でバラすから…」
悪あがきだって分かっていた。
それでも奈津美はどうしても諦められなくて…そんな気持ちから出た言葉だった。
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