『-one-』

零れた想い P66


 二人の部屋に久し振りに明かりが灯った。

 陸は鍵を開けるとしっかりと手を握り締めたまま真っ直ぐ寝室へ向った。

 手を繋いだまま空いている手で麻衣を抱き寄せると麻衣の頭を自分の胸へ押し付ける。

「陸…仕事いいの?指名…」

「ここまで来てまだそんな事言う?」

 往生際が悪いと陸は半ば呆れながら麻衣の頭を小突いた。

「さっきみたいに素直になって、俺が欲しいって言ってよ」

 麻衣は陸の上着を手で掴むと頭をトントンと胸に何度か押し付けた。

「だって私の方が年上だから…仕事の邪魔とか陸の負担にならないようにっていつも…」

「この意地っ張り!誰が年上だって?子供みたいにいっぱい泣いてたくせに」

 意地悪な口調で言われた麻衣は口を尖らせながら掴んでいた陸の上着を引っ張って小さく抗議した。

 陸は手を離すと麻衣の頬に両手を当てて上を向かせた。

 麻衣の心の奥まで見透かしてしまいそうな程見つめた。

「年上って言って一番苦しんでるのは自分のくせに、いい加減止めなよ」

 陸はお互いの息が掛かるほど顔を近付けて更に言った。

「ほら言って…俺が欲しいんだろ?誰にも渡したくないんだろ?」

「…陸が欲しい」

「聞こえない」

「陸が欲しいの。私だけを見てどこにも行かないで」

 真っ赤な顔でようやく本当の気持ちを口にして麻衣は熱い瞳で陸を見上げた。

「何度でも言ってあげる。俺は麻衣のモノ、俺の心は全部麻衣のモノだよ。」

 二人は熱い視線を絡め合ったまま長い時間見つめ合った。

 まるで離れていた時間の分だけそうしているかのように…。

「愛してるよ、麻衣」

 数週間ぶりの甘い囁きだった。


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