『-one-』
零れた想い P65
すんでのところで陸の手は麻衣の手に掴まえられた。
「陸ー!」
麻衣は頬を膨らませて陸を睨みつけたがすぐに二人は楽しそうに吹き出した。
陸は立ち上がるとそのまま麻衣の手を引いて歩き始めた。
「陸、手…離して…」
こんな所誰かに見られたりでもしたら陸に迷惑掛かっちゃうのに…。
麻衣の心配をよそに陸はしっかりと手を握ったまま歩いた。
タクシーを拾っている間もずっと握っていた。
「陸…手離さないと、誰かに見られちゃう」
隣に立っている陸に小さな声で言うとさらに強く握り返されて麻衣はうろたえた。
「俺は離したくない。麻衣が嫌なら離してもいいよ」
陸の目は真剣だった。
「………い」
「ん?」
恥ずかしそうに呟いた麻衣の小さな声は陸の耳までは届かずにかき消された。
陸が体を屈めて耳を寄せると麻衣は耳の側でもう一度言った。
「離したくない」
「うん」
タクシーが二人の前に止まった。
「麻衣…俺達の部屋に一緒に帰ってくれる?」
陸は緊張した面持ちで麻衣を見つめた。
「はい」
今度はしっかりと力強い返事が陸の耳へと届く。
二人はタクシーに乗り込むとようやく帰るべき場所へと帰る事が出来る喜びを噛みしめた。
お互いの指を絡めて二度と解けないようにしっかりと握り合った。
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