『-one-』

ホストの素顔 P13


 帰りの車の中は行きとは比べ物にならないほど和やかで駅前の道のりもあっという間だった。

 朝のように駅前に車を停めた。

「今日仕事あるんだけど、店に来てくれるよね?」

「もう二度と行かないし…」

 泣きそうな顔で麻衣を見る。

「ずっと一緒にいたいもん!お店に来てよぉ」

 ウルウルした瞳で麻衣の顔を覗き込む。

 ウッと怯んでしまう。

「来てくれるって言わなきゃ、このまま連れて帰る!」

「あ、あのねぇ…」

 ハンドルを握ってシフをドライブに入れようとする陸の手を止める。

(これじゃほんとに子供だ…)

 麻衣が呆れていると陸は何かを思いついたように携帯を取り出し電話を掛け始めた。

 気が済んだのかな?と思った麻衣は声を掛ける。

「じゃあ、私行くから」

 降りようとする麻衣を陸が腕を掴んで引き止める。

 口パクで「待ってて」と声を掛けられた。

「あ…今大丈夫?えぇ…昨日は楽しかったですね。それで…えぇ…聞きましたよ今日もお店に…」

 あの少し低めのホスト仕様の声で電話の相手に向かって話し掛けている。

 聞かなくてもその相手が店の客だという事は分かった。

(私…関係ないよね?)

 どうして引き止められたのかも分からず麻衣は少しむくれた。

「もちろんお待ちしてますよ。…それでお願いがあるんですけど」

 陸は電話をしながらチラッと麻衣を見た。

 ニヤッと笑う顔が何か嫌な予感がする。

「昨日の麻衣さんともう少しお話したいと思って……えぇ…途中で帰られてしまったんで…えぇ…出来れば」

「……ッ!?」

 いきなり自分の名前が出て麻衣は息をのむ。

 今の会話で電話の相手は誰だかすぐに分かった。

「じゃあまた店で」

 陸は携帯を閉じてニコッと笑う。

 その笑顔はまるでしてやったりと言っているようだ。

「あ、あんたねぇ…」

「麻ー衣!ちゃんと陸って呼んで?」

 鼻歌も飛び出しそうなほどご機嫌で麻衣は呆れた。

「もう行かないって言っ…」

 言いかけるとちょうど麻衣の鞄の中で携帯が鳴り始めた。


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