『-one-』

零れた想い P62


 目の前で微笑みながら涙を拭ってくれる陸を見て麻衣は信じられなかった。

「ど…して?」

 どうしてもその理由が分からなくて呟いた。

「泣いてるもん。泣いてる麻衣を一人に出来ないよ。」

 麻衣は声を上げて泣き出してしまいそうになるのを我慢した。

 今は伝えないといけない事がたくさんある。

「陸…ック…ごめんね」

「ん?」

「いっぱ…い、いっぱい…ひどい事言った」

「うん」

 陸は泣きながら必死に言葉を伝えようとする麻衣を優しい目で見つめていた。

 目の前にいる麻衣が愛しくて愛しくて仕方がない。

 陸は思わず顔を近付けて唇にキスをした。

「…っ!」

 麻衣は驚いて一瞬動きが止まった。

 でも直ぐに壊れたように涙を溢れ出させた。

「また泣かせちった。」

 さっきよりもボロボロと涙を零している麻衣を見て苦笑した。

 何をしても麻衣を泣かせてしまうらしい。

 本当は抱きしめてしまいたいけれどその勇気が今夜はなぜか出てこない。

 陸は涙が麻衣の頬を伝わないように拭っているのが精一杯だった。

「ねぇ…麻衣?」

 久し振りに聞く優しい声に涙で濡れたまぶたを上げた。

 陸のぎこちない笑顔がぼやけて見える。

「でもね…俺嬉しいの。」

 言葉の意味が分からず麻衣は陸の顔をジッと見た。

 まだ零れ落ちる涙を指を拭うと陸はまたぎこちなく笑った。

「俺の事で頭がいっぱいで俺のせいで麻衣がこんなに泣いてるって思うとすげぇ嬉しい」

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