『-one-』
零れた想い P61
「また泣かせちゃった…」
陸はしゃがみ込みながらと呟いた。
もうずっと麻衣の笑った顔を見ていない。
そして今夜もまた…麻衣を泣かせる事しか出来なかった。
「俺は麻衣を泣かせてばっかりだ…誠さんの言うとおり格好悪ぃよ。好きな子傷つけるしか出来ない…」
陸はゆっくり手を伸ばした。
目の前で俯いて震えている頭に優しく手を添えた。
こうやって触れるのはどのくらいぶりかな…。
手の平から伝わる懐かしい感覚に目を細めているとゆっくりと顔が上がった。
「そんなに泣いたら目が溶けちゃうぞ」
そう言って笑った陸の目も涙で潤んでいた。
麻衣の顔を両手で挟み込むように添えると親指で涙を拭った。
「ど…して?」
麻衣がまるで幽霊を見ているのかというような顔で陸を見た。
「麻衣が泣いてるような気がしたから」
服を掴むのは我慢している時の麻衣の癖、顔なんか見なくても麻衣が泣いてる事ぐらい分かった。
もう泣かせたくなかった。
違う…本当は涙を流している理由が知りたかった。
そして何よりも…自分の心が麻衣と離れたくないと強く願っていた。
「…ウッ…ぅ…」
麻衣はまた嗚咽を漏らしながら涙を流した。
もう泣いている麻衣を一人にしたくない。
温かい涙が指に触れるたびにそこから愛しさが込み上げてきた。
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