『-one-』
零れた想い P60
麻衣は足早に店を出て行こうとしていた。
何を話そうとしていたのかも分からない程頭がぐちゃぐちゃになってしまった。
途中で第三者の声が聞こえてきて急に我に返ると恥ずかしさが込み上げてきて逃げ出してしまった。
恥ずかしくて陸の顔を見る事さえも出来なかった。
「麻衣っ!待って…」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえて麻衣は思わず足を止めた。
足音が自分のすぐ後ろで止まって息づかいが聞こえた。
陸が…すぐ後ろにいる。
麻衣の背中が緊張した。
陸…?何か言って?
いくら待っても陸の声は聞こえずに麻衣は俯いた。
やっぱり…もうダメなのかな?
「や、野菜も食べて…」
喉の奥が震える。
「週に一度休肝日も…忘れないでね」
麻衣は溢れそうになる涙を堪える為に服の裾を強く握り締めて目を閉じた。
「面倒でもシャワーじゃなくてお風呂に入っ…て」
涙を堪えている事も声が震えてしまう事も気付かれないように唇をグッと強く結んで気を張った。
「それと…夢…夢が叶うように祈ってる」
もう限界だった。
それ以上は口を開く事が出来なかった。
麻衣は溢れる涙を堪える事も震える声を抑える事も出来ずにそこから走って逃げるしか出来なかった。
後から後から出る涙を拭わずに麻衣は必死に走った。
走ったせいのなのか胸の奥が締め付けられる痛みを感じて足を止めるとと細い路地に入って崩れるようにしゃがみ込んだ。
「ウワァァーッ…」
麻衣は両手で口を覆って泣き崩れた。
手で覆っても喉の奥から絞り出したような泣き声は細い路地に響いた。
どうして…
どうして好きって言えなかったの。
陸の事が好きだって伝えたかっただけなのに…。
後悔しないように伝えようって決めてたのに…。
何で言えなかったんだろう。
「…っ…く…ゥッ…」
名前を何度も胸の中で名前を呼び続けた。
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