『-one-』
零れた想い P59
沈黙が何度も挟みながらポツポツと話す麻衣の言葉を陸は一言も聞き逃さないように黙って耳を傾けていた。
麻衣の声…少し震えてるね。
ねぇ、麻衣…俺にどうして欲しい?
いつもそうやって俺の心配ばかりしてるじゃん、たまには自分の気持ちぶつけてくれればいいのに。
また長い沈黙に入ってしまった麻衣の顔を盗み見ようとして顔を上げた。
「でもね…私は…」
ちょうど顔を上げた麻衣と目が合って二人は驚いた顔をした。
それでも麻衣は何かを言おうと口を開いた。
「失礼します」
ようやく麻衣が話を切り出した途端ボーイが二人の声が入り込んだ。
ハッ−
二人を包んでいた張り詰めた空気が一瞬のうちに崩れた。
「…様がずっとお待ちです」
「悠斗に相手してもらって、それがダメならオーナーに」
タイミングが悪いんだよ…
陸はイライラしながらボーイを睨みつけたけれどもう遅かった。
麻衣は立ち上がって出口へ向かって歩き出している。
えっ!?どうして!
「待って…」
陸は慌てて麻衣を引き止めようと手を伸ばした。
でも麻衣の耳には陸の呼び止める声も引き止める腕も届かなかった。
なに…どうしてそうなるの?
まだ何も聞いてないじゃん!
「陸ー?早く来てよー」
立ち上がって麻衣を追いかけようとしていた陸の背後から呼ぶ声がして思わず立ち止まる。
くそッ…俺がホストじゃなかったら…。
「早く行け。後悔すんじゃねぇぞ」
立ち止まって悩む陸の横に誠がスッと並んだ。
「ありがとうございます」
陸は小さく頭を下げて麻衣を追いかけた。
「麻衣っ!待って…」
店を出て麻衣の後ろ姿を見つけると夢中で名前を呼んで駆け寄った。
止まってくれた麻衣の後ろ姿。
手を伸ばせばすぐに触れられる所にいるのに陸は手を伸ばして麻衣に触れる事が出来なかった。
[*前] | [次#]
コメントを書く * しおりを挟む
[戻る]