『-one-』

零れた想い P57


「こ、こんばんは」

 陸はとてもホストとは思えないぎこちない挨拶をした。

 顔の筋肉どころか体中が引きつっているみたいだ。

「こんばんは」

 俯いていた麻衣が顔を上げた。


 ドキッ…とした。


 あれからまた痩せた?

 あれ…何日会ってないんだっけ…

 麻衣の声ってこんなに細かったっけ…


 麻衣のぎこちない笑顔にためらいながら隣に座った。

 二人の間に出来た距離が今の二人を表しているみたいだった。

「いつものでいいかな?」

 陸はグラスを持つ自分の手が震えているのに気がついた。

 まさか麻衣と会ってこんなに動揺するなんて自分でも信じられなかった。

 麻衣がボトルに伸ばそうとした陸の手を制した。

「今日はいいよ。すぐに済むから」

 麻衣の言葉に陸は息を飲んだ。

 酒も飲まずにすぐに済むって…どういう事?

「え…でも…」

「話、したいから」

 胸の奥が締め付けられるように苦しくなった。

 話をしたい…。

 俺と話がしたいって俺達の事しかないよな?

「ん…分かった」

 さすがにここまで来たら覚悟を決めないといけないよな。

 それから陸と麻衣は固い表情で押し黙ってしまった

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